第十五話 悪魔に命を預ける覚悟
魔物の素材を無事回収し、帰路につくケイヴたち。中級ダンジョン下層の魔物という事で素材回収クエストの報酬は非常に高額ではあったものの、3人は家に到着するまでついぞ会話らしい会話をしなかった。
家に戻った3人はリビングの椅子に座る。ロングソファーにはミーシャとセレーナがケイヴと対面するように座って居るが、それでもお互いに言葉は出ない。
このままでは埒が明かない、そう思ったケイヴが先に口を開く。
「まず、2人が何を言いたいのかは分かってる」
「え、ええ。ケイヴ、その……さっきは……」
「ミーシャに解毒魔法を使った時に俺の姿が変わってた事についてだろ? いつかは話さなきゃならないと思っていたが、今がその時なのかもしれない。聞いてくれるか?」
ミーシャが何か言おうとしていたが、一旦はケイヴの話を聞く事として2人が黙ったためケイヴは話を続ける。
「とは言っても見てもらった通りなんだ。俺のユニークスキルとでも言えばいいのか、姿形を丸ごと変えてしまう技術、そして変身した相手の得意だったスキルを使えたりステータスを伸ばしたりする能力だ……こんな風に」
ケイヴが左手で顔を覆い数秒、ケイヴはヒーラーの姿になる。その姿に唖然とする2人を前にまた左手で顔を覆うと、今度は少女の姿になる。
「あ、ミリーさん!!」
「あの時は言い出せなくてごめんなさいね」
さて、ここまで来たら流石にミーシャは気が付いたようで、ケイヴに質問をぶつける。
「一つ聞いていいかしら……変身した相手の得意だったスキルやステータスって言ってたけど……その変身する姿の元になる人ってのは、どうやって選んでるのかしら……?」
ケイヴの発言からすると人の姿を借りているという事になるという事に気が付いたようだ。
「ええ、私のこのスキルで変身出来るのは私が死を看取った相手の姿だけなの。そしてこの姿……私の姉さんだけど、この姿以外は私が暗殺した相手から姿とスキルをコピーさせてもらったわ」
ケイヴは事も無げに言い放つ。まるでミーシャとセレーナを試すかのように……。
「暗殺……? ケイヴさんは回復魔法も攻撃魔法も使える戦士、ではないのですか?」
セレーナがケイヴにそう質問をしてくる。なるほど確かにこれまでは戦士の姿で2人と接していたから、戦士と思っていたのだろう。だが……
「そこは重ねて謝るわ、ごめんなさい。最初に2人に会った時の姿が戦士だったから、戦士の姿に変身したまま活動してたのよ……さて、改めて2人に聞くわ。さっき言った通り、私は暗殺者、しかも既に何人も暗殺をしてきた経歴がある人間よ」
ミーシャとセレーナはハッとする。ケイヴは試しているのだ、自分に……既に何人も人を殺めた自分に2人が命を預ける覚悟があるのかを。
ケイヴは姉の姿のまま出来るだけ変な威圧をしないよう明るく振舞ってはいるが、それでも話している内容は今後の2人の将来を決めるような内容ではる。ごくり、と2人が同時につばを飲む。
「2人は短時間ですごく成長したと思うわ。2人だけでも中級ダンジョンのクエストくらいならクリア可能な程には……だからこそ、この先に行くには2人の覚悟を確認したいの。もちろん、今の状態で降りてもらっても構わないわ。今のレベルでも最高レベルの冒険者として生きていくなら十分よ」
ケイヴはあえてここで降りる選択肢も提示する。冒険者として一目置かれる存在として生きていける。もう余程の事が無ければ山賊なんかに怯える事も無い。それもある意味良い生き方であろう。だけれどもね、とケイヴは続ける。
「勇者を倒して仇討をしたいというなら今のレベルじゃ駄目。もっと特訓が必要になるわ。私に……人の命を容易く奪う悪魔に、命を預ける覚悟があるかしら?」
ケイヴとしてはどっちでもいいのだ。魔王城に2人を連れていければ自分は楽になるし、現時点でも2人としては強くなるという目標は達成しているからここで分かれる選択肢もある。
いやむしろ、ここで降りると言ってもケイヴは笑顔で送り出すつもりであった。仇討ちなどという後ろ暗い目標を持つよりも今まで学んだ技術で生きようとする。実に健全で堅実だと思う。
心のどこかで思っているのだ、この2人を仇討なんかに関わらせたくないと。そんな思いを抱えて生きるのは自分だけで充分だと。
その一方でついてきてほしいとも思っている。2人が戦力になるという事もあるが、どうやら勇者パーティーで1年近く過ごした事もあり心の奥底で仲間を求めている所もあるようだ。
――大事な話だからすぐには決められないわよね。急かさないからゆっくり考えていいのよ?
そう2人に声を掛けようとした時だった。
「ケイヴ、私は貴方に言わなきゃならない事があるの」
ミーシャが改まってケイヴに何かを伝えようとする。
「ケイヴ、ありがとう。山賊から私たちを助けてくれて。剣や魔法を教えてくれて。そして私が猛毒にやられた時、秘密がバレる事よりも私を助ける事を選んでくれて」
「いや、あれは」
ケイヴの心の中の冷酷な部分は囁いていたのだ、役立たずは見捨てろと。お礼を言われるような話ではない。後ろめたさから視線を外そうとするが……ケイヴは自分を見つめるミーシャの瞳から目を離せない。その瞳は恐怖や疑念を持っておらず……ケイヴに両親が、姉が向けてくれた瞳を思い出させた。
「ケイヴがどんな過去を持っていようが、私たちを助けてくれたって事実は変わらないのよ。そして、助けてくれた貴方に私もセレーナも恩返しがしたい……いや、仲間として助けたいと思ってるわ」
そう言うとミーシャは立ち上がりケイヴの方に歩み寄る。一歩遅れてセレーナもソファから立ち上がりケイヴに近寄る。
「ケイヴ、いえ師匠。これからも私たちを鍛えてください」
そういいつつミーシャは椅子に座ったままのケイヴに右手を差し出す。思わず差し出された右手を掴んだケイヴはそのままミーシャに引っ張られ、思わず立ち上がる。
「師匠、私ももっと戦う力を身につけたいです! よろしくお願いします!」
続いてセレーナも手を差し出してきたので、そのまま握手をし、そして……
「ほんと、私にはもったいないくらいの勤勉な弟子だわ」
呆れたような嬉しいような、そんな感情がこぼれ出ているような表情でケイヴが笑う。
「仕方ないわね!! これからはもっと厳しくなるわよ!! 泣き言言っても許してあげないんだから!!」
ケイヴが意地悪げに笑う、そしてそんなケイヴに対しミーシャとセレーナは笑顔で
「「はい、よろしくお願いします!!」」
と返答をするのであった。




