マナに酔う女神官
魔獣が今にも襲いかかってきそうな状況にも関わらず、セシルはまるで酒に酔ったかのようにとろんとした目で俺を見上げている。
「おいセシル! しっかりしろ!」
「は~いレンさ~ん、あたしはしっかりしてまふよ~?」
ううっ!
顔が近い!
なぜ回復薬を飲ませただけでこうなるんだ?
「破裂魔法の詠唱はできそうか?」
「はぁ~い、あたしはぁ~ ぜ~んぜんだいじょ~ぶれふよ~?」
くそっ、全然大丈夫には見えねぇー!
「いいかセシル? 体中に散らばっている魔力をここに集めるイメージをもて。全神経をここに集中するんだ! いいかここだ!」
「っ……ぁあっ」
右手の指先をセシルの腹部に当て、円を描くように滑らしたら、また変な声を上げられてしまうが、気にしている場合ではない。
回復薬に溶け込ませた魔力が胃へと到達すると、やがて急速に全身へ広がってしまう。しかし、意識を集中することで、その場に留めておくことはできるのだ。
「しゅ、しゅごい……なんか……しゅごいぃぃい~……」
……気が散るからもう口をふさいでいいか?
だが、俺は大人だ。
こんなことでは動じない。
「いいかセシル? 今度は意識を腕から指の先に移していくぞ!」
「こ……こうれしゅかぁ~?」
上へと指を滑らしていくと、魔力の光が動きに合わせてちゃんと付いてくる。
さすがは俺が見込んだ女――いや、神官だ。すごく反応がいいようだ。
「それを杖の先端に一気に流し込むイメージだ! いっけぇー!」
「ふぇ~い、いっきま~す! 赤は太陽…青はいかづち…緑は生命のいぶき…今ここに顕現せよ!」
ろれつが回っていなかったセシルは、詠唱が始まるや否や、背筋をピンと伸ばして凜とした佇まいの神官の姿となった。
「エンチャント――神鬼爆裂――!!」
杖から飛び出した光の玉が、魔獣の体の中心部で一気に破裂する。
シェルター内の地面にはムラサキ色の肉片が散らばった。
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