エーテルと魔力
「なんだ、オレっちの勘違いだったのか。ごめんなぁー、おっちゃん!」
頭の後ろに手をやり、白い歯を見せて爽やかに笑うリズ。
こうして改めて見ると、どこからどう見ても女の子にしか見えないんだから、人間の思い込みっていうのは怖いもんだ。
男っぽい言葉遣いと、長い髪がバンダナに隠れていたというだけで、俺は彼女を男だと勘違いしていたのだ。
「まあ、俺もキミのことを勘違いしていたから、お互い様だな!」
「ん? おっちゃんは何を勘違いしていたんだい?」
「あ、いや……」
グイッと顔を寄せられて、俺は少し身を引いた。
「ゴホンッ、話を戻したいんだが、ここに若い女神官が来たはずなんだが……」
「ああ、来たよ。リュックにぎゅうぎゅう詰めになるくらいのポーションを買っていったな。あと、人感センサーを買っていったよ」
「人感センサー?」
「オレっちが作ったすっげー便利な魔道具なんだぜ? ダンジョンや森の中に迷った仲間を探す魔道具だよ」
「レーダーか! リズはそんなものまで作れるのか!」
「レーダーってやつがどんなのだかは知らないけど……進行方向に人がいれば石が発光する仕組みなんだ。街中では光りっぱなしで使えないけど、おっちゃんも買っていくかい? 安くしておくぜッ!」
「いや、俺は金を持っていないから……ん? ちょっと待てよ……」
セシルはなんでそんなに大量のポーションを買ったんだ?
ロベルトたちの様子からすると、この後すぐに次のクエストに行くとは考えにくい。
まだ次の予定も立っていない状況で、そんなに急いで大量のポーションを買う必要なんてないはずだ。
それに人捜しの魔道具なんて、いったい何に使うというんだ?
俺はアゴに手を当てて考え込む。
「レン、これおもしろいのー」
「ん?」
声のする方に行ってみると、フレアはカウンターの奥にある機械を触っていた。複雑な形に曲げられたパイプが取り付けてあり、それらの先端はラッパ状に開いている。
俺たちが店に入ってきたときに、リズが溶接作業をしていたやつだ。
「お前また店の物を勝手にいじって……」
「へーきへーき。それオレっちが三年かけて製作中の魔道具なんだけど、まだ動かないんだ」
「ほう……何でも作れるものづくりの天才、リズ様でも作れないものがあるとはな……」
「あはははは、言うねぇー、おっちゃん! でもちゃんと完成はしているんだぜ? 問題はこれを動かす燃料がまだ見つからないことなんだよ……」
「ほう……」
魔道具の燃料といえば魔石から抽出したエーテルだ。
熱や光などに変換するにはどんなエーテルも一緒だが、特殊な用途に使うには相性がある訳だ。
「街で流通している燃料は全部試したんだけれど、どれもダメだったんだ。だから……もう諦めようと思ってんだ……」
リズは白い歯を見せて、二カッと笑顔をつくった。
だが、彼女は俺たちが店に入ってきたことに気付かないくらい、作業に没頭していた。……全然諦めてなんかいないはずだ。
「しょうがねぇーな。森で珍しい魔石が手に入ったら、真っ先にここに持ってきてやるか!」
「おっちゃん……」
キラキラした瞳を向けられて、俺は思わず目を逸らす。
視線の先に、機械のつまみをぐりぐりと動かすフレアの姿。
「フ、フレア! だから勝手に触るなって!」
「いーよいーよ、オレっちの魔道具は子どもが触ったぐらいでは壊れないし、燃料も入れてないから動くはずも――――って、えェェェェェェーッ!?」
リズは口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。
フレアの指先から魔力の光が機械に吸い込まれていき、ブルルルンと動き始めたのである。
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