表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/56

ファイヤーウォール

 フレアの放った炎は、一瞬にして周囲の木々を消し炭に変えた。だが、俺の立っている周りの地面には、何事もなかったかのように緑が残っている。

 火の柱に包み込まれる直前に、身体に蓄えた魔力(マナ)を変換し、俺の回りに防火壁(ファイヤーウォール)を形成して耐えたのだ。


「ぷはーっ、半生のローストチキンになるかと思ったぜ!」


「ふぇ!?」 


 手を広げ、余裕しゃくしゃくの(てい)でうそぶくと、そんな俺の態度を見たフレアはあんぐりと口を開けて驚いている。


 俺は胸ポケットから葉巻を取り出し、口に咥えたまではいいが、手が震えてなかなか火が付かない。 


「い、今のはちょ、ちょーっと手加減し過ぎたの。つ、次は跡形もなく消し炭に変えるの!」


「ふっ……」


 ようやくついた葉巻の火をくゆらせながら、俺はクールに笑って見せた。

 唇の震えに気付かれないように――


「何度やっても無駄だ。お前の魔法は俺には効かない!」


 これは嘘だ。

 なんせ、俺の身体に貯まっていた魔力(マナ)は、防火壁を形成するのにすべて使い切ってしまったのだから。

 

「そ、そんなのやってみなければ判らないの!」


 確かにその通りだ。

 お前が軽く攻撃してくれば、生身の俺は死ぬだろうよ。

 

 これはまずい。

 考えろ!


 俺の中には、前世と合わせれば、60年間の知識と経験の蓄積があるんだ。

  

 考えろ!


 フレアはじっと俺を睨んでいる。

 俺がハッタリをかましたことを見透かされたら一巻の終わりだ!


「――ん? お前、いやに落ち着いているよな?」


「わたしはいつでも落ち着いているの!」


「げほッ―― 嘘つけ!」


 思わず自ら吐いた煙にむせてしまったが、明らかに俺に喰らいつこうとしていた奴と同一人物とは思えないほど、今はすっかり落ち着いている。

 まるで憑き物が落ちたような表情だ。


 しかし、どうやらその状況は長くは続くことはないらしい。

 フレアの表情は少しずつ険しくなり、それに呼応するように左肩から魔力の光がにじみ始めた。


「……人間がこの森に来る理由を、お前は知っているか? 人間は魔女の力が欲しいんだ」


「魔女の……チカラ?」


「そうだ。魔女と同盟を組めば、他国との交渉が有利になる。だから王国の支配者はお前を喉から手が出るほど欲しがっているんだ。だが、お前は人間を拒み続けた。だから、他国に獲られるぐらいなら殺してしまえという命令が下されたんだよ!」


「くっくっくっ、愚かな人間の考えそうなこ――」

「――だが、俺はそんなつまらない理由でここに来たんじゃないぜ?」


 俺が強引に言葉をつなげたものだから、フレアは獲物を横取りされた肉食獣のように、睨んできた。


 俺は口から煙を吐き出し、葉巻を落として足で踏み消す。

 失敗すれば、今のが最後の一本。


 フレアの指先が俺の心臓に向けられた。


「俺の魅力でおめぇーをメロメロにさせに来たんだぜ!」


 髪をかき上げて口の端を上げて見せると、フレアのこめかみにピキッと青筋が立った。


「消し炭になれ!」


 その刹那、左鼓膜が彼女の声をとらえていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

script?guid=on
小説家になろう 勝手にランキング

↑↑1日1回のクリックお願いします↑↑


小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ