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[習作]神様に物質性がある世界  作者: 謎の投稿者X
神核の魔物編
3/3

道標

ロックの救済話です

「なー、ロックー。我らはいつまでここで揺られていればいいのだー。」


 隣でぼやくクロノ。その顔には、退屈という文字が張り付いている。


 俺達は、とりあえず近くの街を目指すことにした。だが全てが灰になってしまったので、当たり前だが路銀はない。途方に暮れながら道を歩いていたところ、行商の列が通りかかったので頼みこんで乗せて貰った。

 それがかれこれ3日前。その間ずっと荷馬車に乗せられていた俺達は、すっかり気力がやられて冒頭に至るという訳だ。


「しょーがないだろー。乗せて貰えただけありがたいと思えー。」


 大分前に神秘を動力に変える方法が見つかり、車というものが開発されたそうだが、全然普及しない。燃料も機構も高すぎるので、一部の貴族くらいしか利用できないと聞く。一般庶民かつ無銭の俺達は荷馬車に乗れているだけでも幸運に思わなければならない。


「ちょっとロックー、そこの()()()落ち着かせてよー。せっかく寝れそうだったのに覚めちゃったじゃない。」

「誰がおちびだって?」

「痛い痛い痛い!思ったより力強いんですけどこの幼女!ちょ、力強めないでいでででで!?」


 今クロノに顔面を掴まれているのは、俺達の荷馬車の先客だ。名前をフィリアという。燃える様な赤毛をした、俺と近い年代の少女だ。


「いったー…。口が縦に裂けるかと思ったわ。」

「これに懲りたら金輪際ちびだの幼女だの言うなよ。」

「分かった分かった、クロノってちゃんと呼ぶわよ。」


 言動から分かる通り、かなり明るい性格をしている。この馬車には俺達が乗るかなり前から乗っていたらしいが、全然堪えた様子は無くクロノを時折弄って遊んでいる。


「私もう一回睡眠チャレンジするから、今度は起こすんじゃないわよ。」


 そう言って目を瞑るフィリア。それきり、荷台が揺れる音しか聞こえなくなる。…こうまでやることが無いと、ついついポケットの中のペンダントに意識が向いてしまう。

 なるべく考えないようにしていたのだが、やはりポケットの中で感触を感じる度、気分が沈む。


「…我も寝る。」


 俺の顔が暗くなったことを察してか、クロノも目を瞑って横になる。心の中では、自分は俺に何か言う資格などない、とでも考えているのだろう。そこまで気に病まなくていいと思うが、これも彼女なりの気持ちの整理の仕方なのかもしれない。


 ペンダントを取り出し、手に握る。時間帯は既に夕方にさしかかり、西日がペンダントにあたりキラキラと光っている。

 無くなった日常に対する寂寥感から涙が出そうになるが、ぐっと堪える。このペンダントを見る度、同じような衝動に襲われるが、その都度堪えている。

 だが、このペンダントを見つけられたことは幸いだったと思う。何かしらの象徴があるだけで、思い出を感じやすくなる。辛いことだけでなく、幸せだったことも思い出せる。無くして始めて、形見というもののありがたさが分かった。


 しばらくペンダントを見つめていると、目を瞑ったままフィリアが口を開く。


「辛気臭くて寝てられないわ。…話くらいなら聞くけど。これでも私は教会出身よ。」


 そう言って懐から、銀色の紋章を取り出す。俺は神話に詳しくないのでその紋章が何の神様を表しているかは分からないが、彼女の信仰する神様のものだろう。

 この世界には、伝承教会という組織が存在し、その下部組織として各地に教会がある。個人によって差はあるが、信仰する神様ごとに奇跡が存在し、聖書を読み解くことでそれらを操ることができる。教会ではお金を取ってこれらを扱う知恵を民衆に授けているという訳だ。


「…故郷を魔物に滅ぼされたんだ。村の人達も、家族も、皆焼けてしまった。残ったのは俺だけだ。」

「―――そう。それでアンタは、あんな目をしてたって訳ね。」


 フィリアは荷馬車の壁に寄りかかり座ったまま、唐突に奇妙なポーズをとった。右腕を顔の左に上げ、そのまま右へ持って行く。


「何やってるんだ?」

「切り替えのポーズよ。こっからは真面目モード。」


 そう言ってキラリと目を光らせるフィリア。確かに、右手が顔を横切った途端に顔が真面目になり、瞑っていた目を開いている。彼女なりの切り替えの仕方なのだろう。…若干のシュールさはあるが。


「…そんな目にあって、神様についてどう思った?」


 息が詰まる。あの夜、あんな目にあって、神様に祈らずにはいられなかった。たとえ、神様は既に死んでこの世にいないと分かっていても。あの神殿で、自分の無力さを感じながら蹲るしかなかった。

―――結果的にはクロノに助けられたが、あのままだったら俺は…。


「神様は本当に死んでしまったのだと、そう思った。この世に縋るものは無いんだと。…情けないよな、まず自分を責めるべきなのに。」

「いや、自分を責める必要なんてないし、()()()()()()()()()()()。」


「えっ。」


 不意を突かれて思わず驚く。教会出身者だと言うから、神様を信じれば救われるとか、これは神様からの試練だとか、そっちの方向に持って行くものだと思っていた。


「ま、神様を信じることより大事なことがあるってことよ。―――私は、大事なことは、道標(みちしるべ)を見つけることだと思ってるわ。」


「道標?」


「そ、道標。…少し湿っぽい話するわよ。

 あるところに、どこぞの貴族に買われた女がいた。

 だけど騙されて、薬で体をいじくられ、子供を産まされ、母子共に殺されそうになった。

 すんでのところで赤ん坊と逃げたけど、食事に毒が盛られてた。

 とりあえず、ここまではありふれた話よ。」


 確かに、治安の悪い地域ではよく聞く話ではある。女が弄ばれ、捨てられるというのは。…胸くそ悪い話であるが。


「でも、瀕死の所でその女は道を歩いていた神父に会った。

 それで最期にその女は、『この子を頼みます。』と言って、神父は了承の返事を返した。

 その女は、その返事を聞いて、幸せそうな顔をして息を引き取ったそうよ。

 ―――私は思うの。その神父は、最期にその女に道標を示した。もう大丈夫、貴方の生は確かにここにある…そう示す道標。」


 そう語るフィリアは、どこか遠くを見るようであった。既に無くなってしまったものに思いを馳せるような、そんな目だ。

 俺も、あんな目をしていたのだろうか。


「そんな、騙されて命を落とすような女にでも、確かに道標はあったのよ。その生に、意味を与えるものがね。…だからアンタにも、きっとあるはずよ。誰かが、何かが、授けてくれた道標(きぼう)がね。」


 道標、か。目を瞑って、思い出されるのは温かな記憶。そして、目を逸らしていたあの夜の記憶。炎に呑まれていく村へ向かう親父の背中。俺を庇った母さんの姿。

 2人とも、俺に最期に伝えた言葉は、表現は違えど同じだった。『生きろ』と、そう言っていた。ならばそれが、彼女の言う道標なのだろう。


―――ああ、俺は、自分でも知らないうちに、あの夜の記憶から逃げていたんだな。

 あの神殿から、()()()()()()()()()という思いがどうしても拭えなかった。

 ()()()()()()()()()とそう思っていた。


 俺は馬鹿だ。道標を示してくれたあの2人が、そんなことを許すはずないのにな。俺は生きていてよかったんだな。…よかったんだ。


「―――ああ。目をそらしていたが、確かに見つけたよ。」

「そ、なら良かったわ。自分で自分を責めるなんて止めた方がいい。無限に終わらないもの。」


 そう言うと、フィリアはまた先程のポーズを取る。どうやら、真面目モードは終わりらしい。先程まではキリリとしていた雰囲気が、一瞬で霧散した。


「しかしすごいなフィリアは。教会でもあんなことやってたのか?」

「まーね。私はそこまで信心深くないんだけど、神父様の代わりに時々やってたのよ。何でも、『私にその資格はない』らしいわ。神父なのに面白いわよねー。」


 そう言うと、フィリアは外の様子を伺う。外はすっかり日が暮れ、荷馬車を闇が取り囲んでいる。街が近いので、今夜は止まらず行く様だ。周囲には馬の蹄の音と、荷台が揺れる音のみが響いている。


「そう言えば、フィリアは奇跡を使えるのか?」

「あー、まあ、一応ね。」

「なんだか歯切れの悪い言い方だな。」

「さっきのポーズと関係あるんだけど、私、ポーズ取らないと奇跡使えないのよ。」

「なんでだ?奇跡って言ったら…。」


 そこまで俺が口にすると、フィリアは苦笑いしながら目を逸らす。

 通常、奇跡は聖書で対応する話を読み解き、信仰心と共に祝詞(のりと)を唱えれば発動できると聞く。

ポージングすることで発動するというのは初耳だ。


「ま、まあその話は置いといて。あと少しで街に―――」


 瞬間、荷馬車の動きが止まる。そして、前方から聞こえる怒号と悲鳴。


「夜襲だ!冒険者は何をしてる!?」「姿が見えねえ!」「た、助けてくれ!」


 どんどんと悲鳴の数が増えていく。街の直前、商人達が油断した所を見計らっての奇襲。俺達の馬車に夜盗が強襲してくるのも時間の問題だろう。


「クロノ!起きてるか!?」

「今起きた!ロック、商人の皆を、助けられるか…?」

「ああ!二人はここに隠れててくれ!」


 二人をこの荷車に待たせて、俺は外に出ようとする。俺が頭を荷台から出した時、頭上に小さな炎が灯る。お陰で周囲が照らされ、様子が伺いやすくなった。


「『導きの火』…無茶しないでね。いざとなったら私が出るから。」


 後ろを振り向きフィリアを見ると、頭の上で合掌していた。それも真面目な表情で。

 横でそれを見ていたクロノがギョッとしている。


「あ、ありがとう。クロノを頼む!」


 体に神秘を纏わせ、先頭の荷馬車へ向かう。向上した身体能力により、夜盗が襲っているところまで数瞬の後に到着する。


「何だこのガキは。頭に炎ついてやがる。」

「人間蝋燭か?」

「照らされたら面倒だ。一挙にやっちまうか。」


 俺に気づいた夜盗が次々に襲いかかってくる。その手には短剣や松明、馬を射貫き逃亡者を追撃する為の弓など様々なものが握られている。

 …中には血がついているものも。


「たかがガキだ!殺しちまえ!」


(手加減をしつつ―――急いで倒す!)


 まずは飛びかかってきた短剣持ちの腹に一発。その男が崩れ落ちている間に弓持ちに距離を詰め、その勢いのまま顎に一発。

 …魔物を狩っていた経験は、無駄ではない。動きを止める技術、仕留め方などを応用することができる。


「ば、化け物…!」


 目の前の夜盗が支離滅裂に短剣を振り回す。それを全て避け、タイミングを読んで短剣の柄を蹴り上げる。


「ヒッ!?」


 無力化したところに膝蹴りを入れ、意識を刈り取る。段々数が減ってきた。

 一足飛びで標的に近づき、一撃で気絶させる。クロノから与えられた力により、神秘を纏えるようになった。そのお陰で化け物染みた動きが可能になったという訳だ。


(夜盗はほぼ殲滅、後は負傷者の治療だが…)


 そこまで考えた時、不意に頭上の炎が消える。余りにも唐突に消えたので、奇跡の効果時間が切れたという感じではない。


(フィリアに何かあったのか!?)


 神秘を全開で体に纏い、俺達が乗っていた荷馬車に戻る。そこには、頭から血を流し、ぐったりとしたフィリアが男に剣を押し当てられていた。

 その、フィリアに剣を押し当てている男は―――


「アンタ、護衛の依頼を受けた冒険者じゃなかったか。」

「おいおい、誰がアイツらに合図を送ったと思ってる。こんな街の近くに潜んでたらすぐに騎士団にしょっ引かれる。俺が手引きしてたんだよ。」

「お前…!」

「おっと動くなよ。お前がこの荷馬車に乗ってたのは知ってる。少しでも動いたら、この嬢ちゃんが死ぬぜ。」


 男は横たわっているフィリアの首筋に短剣を押し当てる。その場所が薄く切れ、血が流れ出す。


「よーし、それでいい。まあコイツは器量十分。売れば金になるから傷をつけさせないでくれよ?」


 そう言って下卑た笑いを顔に貼り付ける冒険者の男。

 頭に血が昇っていくのがはっきりと分かる。腸が煮えくり返り、あのナイフが無ければ今すぐ殴りかかるところだ。


 寝ているフィリアを起こそうと、男が腰を上げようとする。


「フィリアを離せ、外道!」


 その時、荷馬車の下から不意にクロノが現れ、男の顔を蹴り上げる。しゃがみ込んでいた状態から立とうとしたため、顔の位置が下がってクロノが狙える位置に入ったようだ。

 そして顔を蹴り上げた為、押し当てられた短剣の位置が上がり、その切っ先がフィリアの首筋から離れる。


「助かったぞクロノ!」

「嘗めやがってガキがぁ!コイツを殺してやる!」


 怒り狂った男が短剣を振り下ろそうとするが、すんでのところで刀身を握って止める。左手に刃が食い込み、血が溢れ出てしまう。

―――だが。


「覚悟はいいか?」


 右拳に神秘を一点集中。体に纏っていた神秘を全て拳に集中させる。右手が柔らかな光を帯び、暗闇を照らす。そして溜めた神秘を解放し、男顔に狙いをつけ――――――ぶん殴る!


「げぶぅっ!」


 衝撃により男の体が空中へと打ち上げられる。そのまま空中を滞空し、どこぞの暗闇に消え去った。あれだけの力で殴ったのだ、気絶はしているはず。

 周囲に夜盗の影はもう見えない。完全に危機は去ったようだ。


「大丈夫かフィリア!…ん?」


 急いでフィリアに走り寄る。だが、その途中で左手が暖かい炎に包まれる。その炎に包まれた箇所が再生し、先程の切り傷がどんどん塞がっていく。


「『まほろばの炎』…ありがとね、ちょっと意識飛んでたみたい。」


 倒れながらもフィリアは奇跡を発動する。気づけば、傷ついた商人の人々にもその炎は宿り、その体を回復させている。

 その炎は柔らかな橙色をしていて、暗闇をぼんやりと照らす。あの魔物が使っていた炎、全てを燃やし尽くし、灰にする炎とは正反対の炎だ。


「すまんフィリア、我を庇ったばっかりに…。」

「良いってことよ。」


 周囲に光が灯り出す。商人の人達が回復しきったみたいだ。夜盗を縛り付け、街まで行けばこの旅路も終わりだ。



 街に着き、俺達はそれぞれ解散した。荷馬車を降り、フィリアに別れの挨拶を済ませ、今俺達は二人で街を歩いている。幸運にも、商人に犠牲者はいなかった。盗賊も皆まとめて騎士団に捕まり、投獄されたようだ。


「フィリアの奴、『あんた達とはまた会う気がするわ。』だってさ。」

「そうなるといいな。…道標、という考えは我は好きだな。」

「お前起きてたのか。まあそうだな、俺も救われたよ。」


 願わくば、あの優しい炎をもう一度見ることができればいいな。炎は壊すだけではなく、道標にもなる。フィリアは、それを体現したような人間だ。暗い道筋を、小さく照らしてくれる優しい炎。恐らくクロノも似たような印象を彼女に抱いたのだろう。顔が穏やかになった気がする。


 余韻に浸りながら歩いていると、唐突にクロノが口を開く。


「ところでロック、ここはどこだ?」

「え、ここは街の…あれ?俺達どこを歩いてきた?」

「覚えてないぞそんなもの。」


 この後滅茶苦茶迷った。

ストック切れたので次回投稿は未定です。

設定が前作と似ているのは色々と展開を模索しているからです。今後も似たようなので試すかもしれません。許してつかぁさい。

ポイントがついたらこの設定で進めていきます。

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