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[習作]神様に物質性がある世界  作者: 謎の投稿者X
神核の魔物編
1/3

邂逅:前編

 この世界には、神様がいた。これは紛れもない事実であるし、広く衆知されている。どうしてそう言えるかというと、神代の痕跡が至るところに見られるし、実際に神様の権能が()()しているからだ。


 伝承によると、死んだ神様は、『神核(しんかく)』と呼ばれる結晶になってこの世に権能を遺していく。

そしてその神核を手に入れた者は、神様と同じくらいの力を得られると聞く。


 そして500年前、神様の間で大戦争が起こり、神様はほぼ死に絶え、神代は終わった。戦争は世界中に爪痕を残し、多くの神核は世界に遺された。


 人々には夢のあることだろう。何せ、手に入れれば神様と同様の力を振るうことができるのだ。それに、神核だけではなく、神々や英雄の武器防具、『遺物』も確認されている。強さを探究し、また望みを叶えるには夢がありすぎる。


 ただ、ここで俺が言いたいことは―――

                  ―――神様が物質(死んだ)ならば、祈りはどこに向ければいい?





「ただいま~。」


「あらロック、どこに行ってたの?」


「森で魔物を狩ってた。少しは家計の足しになるだろ?」


 俺は母親に近づくと、懐から欠片を取り出して渡した。この世界には、大気中に『神秘』が溢れている。それは、生きとし生ける物全てに力を与えるもの。要するに、「吸収すれば力を与えてくれるもの」だ。


 そして、それは人間以外の生物にも同様。吸収し続けていれば力は漲り、新たな進化を促す。俺達はそれらを魔物と呼び、魔物は倒すことで体にため込んだ神秘を欠片として手に入れることができる。


 で、その神秘は色々利用価値があるので、魔物を狩れば金になるという訳だ。勿論、魔物の遺骸も利用価値があるが、俺の狩った魔物は低級で欠片しか金にならないので今回は取ってない。


「あら、助かるわ。でも危ないことをしちゃ駄目よ。もう15になるんだから、危険を見極めなきゃね。」


「分かりましたよっと。」


「じゃあ夕飯にしましょうか。お父さん外で仕事してるから呼んできて。」


「はー、了解。」



 家族3人で食卓に座り、今日の成果を話し合う。俺達の住む村は小さく、大きな町からは遠く離れている。なので、父親も俺も魔物や獣を狩って家計の足しにしている。


「今日は結構大量に欠片が手に入ったぞ。しばらくは安泰だな。ロックはまた森に行ってたのか?」


「そうだよ。ちょっとだけど欠片も手に入った。」


「また、森の神殿にも行ったのか?」


「ああ。あそこの神様はまだ神核が見つかってないんだろ?見つければ一攫千金、大金持ちよ。」


「いや、どうせ国が見つける前に盗掘されてんだろ。それに、よしんば見つかったとしても名前も伝わってない神様だからなあ…。そこまで高くないだろ。」


 と親父は俺の夢を壊すような発言をする。少しでも希望があるだけマシとは考えないのか。俺も休憩スポットにしがてら探してるだけだが。


「さて、今日は終いだ。マリー、今日もご馳走様。愛してるぞ~。」


「ハハハ、なら食器洗ってくれる?」


「ちょっとトイレ行ってくるわ。」


 今日も何気ない一日が終わる。お調子者の父親と、それをいなしながらも逞しく生きる母親。魔物が蔓延るこの世界で、こんな日常を送れるのはありがたいことだ。いつもこんなことを考えている訳ではないが、なぜか今日はそう思える。


―――こんな日々が、いつまでも続けばいいのに。

 そんなことを考えながら、その日は眠りについた。




「おい、起きろロック。」


 その夜、突然父親に起こされた。寝ぼけ眼をこすりながら、父親の方を見る。そこには、戦闘の装いを整え、いつになく真剣な父親の姿があった。額には汗が噴き出し、大剣を握る手には力が入っている。


「どうしたんだよ親父。」


「今すぐ動きやすい格好に着替えろ。そしてマリーと共に、森の神殿に逃げろ。()()()()()()()()()()()()()。杞憂ならばそれでいい、深夜のハイキングで終わる。」


「わ、分かった。親父は?」


「俺は村に残る。何、心配はない。ヤバそうだったら逃げるからよ。」


 俺はすぐに着替えると、母親を連れて家の扉を開ける。その瞬間、村の片隅で悲鳴が上がり、爆音が轟く。大地が震え、炎が天高く舞い上がる。何かが、火柱の下にいるのは明らかだった。


「…行け。後ろを振り向くなよ。マリー、()()()()()。」


「―――分かったわ。」


 その会話の間にも、村の至る所で火柱が上がる。すぐにこちらまで到達するだろう。親父は剣を担ぎ、爆音の中心地へ向かう。俺達が逃げる時間を一秒でも稼ぎたいのだろう。

 返事を返した母親は、何かを覚悟したようだった。俺にも、何を覚悟したのかくらいは分かる。その瞳には、微かに涙がにじんでいた。


 二人で森に向かって走り出す。遠くから、親父の声が聞こえた。


「ロック!大きくなれ!大きくなれよ!」


「…聞こえねぇ!後で直接言いに来い!」


 走りながら言葉を紡ぐ。見てはいないが、俺の言葉を聞いて親父がどんな顔をするかは分かる。きっと、いつものように笑っていたに違いない。




 森の中を走る。母親の手を引き、ただ走る。既に日は落ち、手元の灯りが頼りだ。

―――既に、村の方から爆音は聞こえない。怒号も、悲鳴も、断末魔も、全て聞こえない。それが、何を意味するのかは、考えないようにしていた。


「もう少しだ母さん!後少しで神殿に着く!」


「ええ!」


 襲ってくる魔物どもを斬り伏せながら進む。幸い、短剣は常に携帯している。この森に出てくるレベルだったら、一薙ぎで殺せる。

 このまま行けば、二人とも助かる。あと少しだ。あと少し―――


 瞬間、手元の()()が震える。正確には、灯っている火が不自然に揺れる。まるで意思を持っているかのように。赤々と燃える火は、先程村で上がった火柱と似た色、橙がかった色を湛え始める。


「うわっ!?」


 俺は、咄嗟に灯りを持っていた手を離してしまう。灯りは地面に落ち、ガラスが割れる音が響く。直前まで小さかった炎は地面に撒き散らかされ、()()()()()()()()()()


「―――俺から、逃げられるとでも思ってんのか?」


 完全に形を形成し終わった炎は、俺達二人の目の前で嗤う。その形は、人と似ているが、決定的に何かが違う。生物ならば顔がある。少なくとも、目はあるはずだ。それが炎で形成され、一部分だけが紅く染まっているなど、聞いたことがない。まるで、()()()()()が人の形を成した様だ。


「…まあ、俺の攻撃に気づいて逃げ出したことは褒めてやる。ケッ、馬鹿なのか知らねえが()()()()()()()()()()()()()()。炎を斬れる訳ねえってのに、何度も剣を振るいやがった。餌は餌らしくしてればいいってのによお!ギャハハハハハ!」


 そう言って炎は高々と嗤う。心底人間を見下した様子で、大口を開けて嗤う。その高笑いが響く度、周囲には火の粉が舞い、暗い森を明るく照らす。

 炎の化け物はひとしきり笑い終わった後、手らしき形をした炎を前に出し、俺達を指差した。


「―――で、だ。賢いお前らに選択肢をやる。お前ら2人の内、()()()()()()()()()()()。俺は、賢い人間は嫌いじゃねえからな。」


 こいつは一体、何を言っているんだ。脳の理解が追いつかない。どちらか片方だけだと?ふざけるな、何様のつもりだ。


(か、体が動かねえ…!手も、足も石になったみたいだ…!)


 本来なら、今すぐあの化け物に殴りかかっている。アレが、()鹿()()と罵った人間は、最後まで剣を振るった人間は、俺達が一番知っているのだから。

 だが、体は意思に反する様にピクリとも動かない。息を吸うことさえ失敗しそうになる。声を出すことなんてできるはずがない。


「何だ、返事がねぇなあ?両方食ってやってもいいんだぜ?」


「私を、殺しなさい。」


 隣から、母の声が聞こえる。やめてくれ、親父も、母さんも、俺を置いていかないでくれ。

 『殺すなら俺を殺せ。』その一言が口から出ない。声帯が炎に灼かれたかのように、うめき声しか出すことができない。

 

「よおし分かった。」


 止めろ、その指を母さんに向けるんじゃない。向けられた指先に、炎が集中する。周囲を舞っていた火の粉が一点に収束し、より一層まばゆい光を発し始める。


「ま、選んでいいとは一言も言ってねえがな。」


 炎が臨界する瞬間、その指先は俺に向けられ―――俺を庇った母さんの体を、炎の光線が貫く。


「読んでやがったか、反応がはええ。まあいい、約束通りだ。そっちのガキは見逃してやる。」


 貫かれた母さんの胸から、炎が噴出する。その炎は段々と大きくなり、やがてその体全てを包む。俺は、その光景を呆然と見ていることしかできなかった。


「後を、頼まれたからね。」


 炎に包まれながら母は口を開く。その一瞬の後、炎の中に母さんの姿はなく、ただの黒いヒトガタになっていた。

 最後に、その黒いヒトガタは、何かを俺に伝えようと口を開く。焼け焦げて動かないであろう口を微かに動かし、最期の言葉を伝えようとしている。


『い』『き』『て』


 炎が消え、その場には母()()()()()が転がる。周囲には肉が焼ける臭いが立ちこめ、唇が何かの脂でベタつく。


「チッ、焼き過ぎたか。」


 そう炎は言うと、母の遺骸を担ぎ、村の方へ戻って行く。残されたのは、尽くを焼かれた森と、村人全員の命と引き換えた、無傷の俺だけ。

 炎の魔物が消え、急に体が動き出す。さっきまでの硬直が嘘のように、息も、声も出せる。何てことは無い、()()()()()()から動けなかったのだと、ようやくその時点で分かった。




 気づけば、俺は森の神殿にいた。苔むした柱に、天井から開いた穴から差し込む日の光。いつの間にか夜は明け、神殿内を柔らかな光が満たしていた。

 茫然自失となり、無意識のうちに目的地に向かっていたのか、それとも、昨日までは確かにあった日常を求めて来たのかは分からない。

 確かなのは、俺には既に何もなく、村にはあの炎の魔物が居座っているだろうということ。


 自分の無力さに吐き気すら催す。自分の両親を見捨て、目の前で奪われておいて、()()()()()という選択をとれない自分に対して怒りすら覚える。


―――ああ、神様。どうか、あの魔物を打ち倒して下さい。無力な自分では、立ち向かう勇気すらありません。


 神なぞ、とうの昔に死に絶えている。この時代に残るのは、神だったもの(物質)だけ。祈りなど、届くはずもないと分かっている。あの化け物に立ち向かえるのは、村の、家族の仇をとれるのは、自分しかいないと分かっている。


 それでも、()()()()()()()()()()()()。どうか、どうかお願いしますと、神が座していたであろう場所で祈るしかない。


 その祈りは届かず、周囲を支配するは静寂のみ。こんな自分など、あの場で死んでいればよかったのだ。

自分など、()()()()()()()()()


 そう考えた瞬間、服の端から火の粉が舞う。そして火の粉は段々と増え、炎の形を成していく。それは、母を灼いたものと同種のものの様だった。

 あの炎の魔物は、最初から獲物を見逃す気など無かった。ただ、餌が動いていたから遊んだだけ。ただそれだけの為に、母は命を散らし、俺はここで生きている。


(ああ、これでいい。これが、俺の運命だったんだ。)


「―――生きたいか?」


 唐突に、神殿の奥深く、一際高くなっている祭壇から声が響く。女性、いや、まだ一桁くらいの年齢の少女の声だ。


「お前は、()()()()()のではないのか?」


 火の粉から、右腕に炎が移る。


「どうしてお前はここにいるのだ?」


 右腕から、胴体に燃え広がる。


「力があれば生きるのか?」


 炎が全身を包む。


「力も、命もくれてやろう。―――お前は、生きたいか?」


 俺は、炎の中で、差し出された手をとった。

 のんびり書いて行こうかなと思います。評価や感想は創作の励みになりますので、続きが読みたいという方は是非お願いします。

 誤字脱字、このような文体だとより読みやすいなど、アドバイスもどんどん下さい。

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