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誕生日の贈り物

「行きたいところあるなら言え。軽そうなものから買いに行くぞ。それから、レストランで昼食を済ませて、ルシアに頼まれた食材を買いに行くからな」

 そう言ったのは、ディエゴを肩車して颯爽と前を歩いているカイオさんだ。最年少で竜騎士になったカイオさんの人気は高い。人混みの中でも注目されているが、カイオさんはそんなことには慣れているのか悠然としている。


「絵の具!」

 すぐさま答えたのはディエゴだった。

「私はね、街の雑貨店へ行きたいの」

 レアナが首を後ろに曲げるようにして背の高いカイオさんを見上げている。僕も早く背が高くなって、あんなに風に見つめられたいと思ってしまった。


「ジョエルは行きたいところはないのか?」

 レアナは雑貨店で何を買うつもりだろうと考えていて、返事が遅れてしまったので、カイオさんに再度訊かれてしまった。

「僕も雑貨店」

 おそらくリボンもそこにあると思う。

 竜騎士の基地内にも雑貨店があり、食品から日用品、衣類まで揃っているが、お土産物以外は生活に必要な物ばかりだ。若い女性が少ない基地ではリボンは必要とされていないらしく、売っているのを見たことがない。


「じゃぁ、画材店へ先に行って、飯を食ってから、雑貨店へ行くぞ」

「カイオさん、了解しました」

 ディエゴが見よう見まねで敬礼をしている。肩車されているので、様にはなっていないが。




「えっとね、土色の絵の具と青い絵の具。それから、赤」

 黒と白の絵の具、それに写生帖は既に買ってもらっているディエゴは、僕が買ってもいいと言った三色を決めていたらしい。画材店に入るとすぐに店主に伝えていた。

 すぐさま店主がいくつかの絵の具を持ってくる。微妙に違う色がたくさんあるようだ。


「土色はね、お父さんの竜のエルネストを描くんだ。青は空の色。そして、赤はライムンドの目の色だよ」

 色見本を見ながら楽しそうに絵の具を選ぶディエゴは、大きくなったら騎士団専属の絵師になりたいらしい。竜を勇ましく絵に残す絵師は、ディエゴの憧れなんだ。新しい竜が基地にやってくれば、竜騎士団本部の玄関ホールに飾るために、絵師がその竜の絵を描く。そして、新聞に載る挿絵も発行所に提供するんだ。新聞の挿絵は白黒だけど、本当に迫力があって格好いい。

 僕の家にも父が竜騎士になったお祝いに贈られたというエルネストの絵が飾られているけれど、それも基地の絵師さんの作品だそうだ。

「俺のライムンドも描いてくれるのか? それは楽しみだな」

 カイオさんも嬉しそうにしていた。


「これと、これ。それにこの赤がいい」

 しばらく悩んでいたディエゴだったが、ようやく色が決まったようで、にこにこしながら三本の絵の具を店主に告げていた。

 料金は思っていたより高かったけれど、予想の範囲内だったのでお金を渡して包んでもらう。店主がディエゴに絵の具の入った袋を渡すと、ディエゴは宝物のようにその袋を抱きしめていた。




「あのレストランに行ってみるか? 美味そうな気がする」

 画材店を出てすぐに、カイオさんは道の向こう側にあるレストランを指さした。ディエゴの絵の具選びには思った以上の時間がかかったので、僕もおなかが空いていた。

「僕もあそこがいいと思います」

 全く根拠はないけれど、竜騎士のカイオさんが言っているんだ。間違いはないだろうと思う。

「僕も! おなか空いたし」

 相変わらずディエゴはにこにこしている。思った通りの色の絵の具が手に入って、それだけで満足らしい。 


「お母様は一人で食べるの? ちょっと可哀想」

 心配そうにレアナがカイオさんを見上げた。

 僕も一人で留守番をしている母のことを思い出し、自分たちだけレストランでお昼を食べてもいいのかとカイオさんを見る。

 そうすると、カイオさんはレアナの頭をぽんぽんと軽くたたいた。

「レアナは優しいな、しかし、安心しろ。ルシアはパトリシアさんと一緒にお昼をするんだと。久しぶりに女同士で楽しむらしい。セザルも二人で世話をするらしいから、心配しなくてもいい。だから、俺たちも楽しもうな」

 パトリシアとは僕の母親、セザルは生後三か月のレアナの弟で、とても小さくて可愛い。母も自分の子供ができたみたいだと喜んでいて、しょっちゅうルシアおばさんの手伝いに行っている。


「じゃあ、早く行こう」

 レアナはカイオさんの手を引っ張って歩き出す。僕はちょっと残念に思いながらディエゴの手を引いた。



 お昼はとっても美味しかった。カイオさんは信じられないほどの量を頼んだので、僕たちが完食するのは無理だと思ったけれど、気がつけば皿には何も残っていない。

「お父様がすごい量を食べるのは知っていたけれど、ジョエルもいっぱい食べるのね」

 最近すぐにおなかが空くように感じる。よく食べるねと母にも言われたことがあった。

「魔法を使うと腹が減るんだよな。ジョエルの魔力量はどんどん増えているし、ジャイルに魔法を習っているから、魔力をかなり消費しているのだろう?」

 僕が応える前にカイオさんが説明してくれた。

「そうなんだ? やっぱりジョエルは凄いよね」

 レアナが感心したように僕を見ている。


「うん、竜騎士見習いの選考会を受けてみたいから」

 僕は恐る恐るカイオさんを見た。また竜騎士になるのは無理だと言われてしまうのではないかと怖かったが、カイオさんは俺に笑いかけてくれた。

「頑張れよな」

 竜騎士に応援してもらって、僕は嬉しくて泣きそうになっていた。父には竜騎士になりたいとはまだ伝えていない。父もカイオさんのように応援してくれるのだろうか。

「僕はね、お兄ちゃんが竜騎士になったら、お兄ちゃんの竜を描くんだよ!」

「おお、ディエゴも頑張れ!」

 ディエゴも嬉しそうに笑っている。僕は幸せってこんなものなのかなと感じていた。そして、もう少しこのままでいたいから、選考会への挑戦は来年か再来年にしようかなと考えていた。





「ちょっと、奥へ見に行ってくるから」

  雑貨店に着くと、レアナは目当ての商品があるらしく奥へ行ってしまった。

「俺はルシアに香油でも土産に買って帰るから。お前らは絶対に店の外へ出るなよ」

 そう言い残して、カイオさんは化粧品を置いている場所に向かった。

 僕もレアナに渡すリボンを買いたいと思い、ディエゴの手を引いてリボンがありそうな方へ行く。


「なぁ、ディエゴ。レアナにはどんな色のリボンが似合うと思う?」

 リボンを選ぶのがこんなに大変だと思わなかった。たくさんの色の中からレアナに似合うものを選ぶことなんてできない。困った僕は弟の意見を訊いてみることにした。

「うーんとね、レアナの髪の毛にはね、こんな色が可愛いと思う」

 ディエゴが指さしたのは、青紫のリボンだ。確かに亜麻色の髪には映えるかもしれない。弟の選んだものを買うのはどうかと迷ったけれど、やはりそれがレアナに一番似合うような気がして、僕は青紫のリボンを買うことにした。



 カイオさんがルシアさんに頼まれたという食材や日用品を買い求めてから、僕たちはライムンドに乗って基地まで帰り着いた。

 その間中、どう言ってレアナにリボンを渡そうかと考えていたので、僕はあまり記憶に残っていない。


「渡したいものがあるの。後で庭に来て」

 家の前に着くと、レアナが僕の耳元でささやいた。僕はこんな機会をもらえたことが嬉しくて、何度も頷いていた。


 家の中に入ってすぐに、ディエゴは自分の部屋へ行くために階段を駆け上がった。母は台所にいるらしい。僕はそっと裏口のドアを開ける。もちろん、リボンが入った袋は忘れていない。

 庭にはレアナの姿は見えなかったので、外へ出てしばらく待つことにする。

 少し待っていると、裏口からレアナが顔を出した。今日は僕の方からレアナに近づくことにする。

「転ばないようにね」

 軽く走っていると、レアナは昨日僕が言った言葉を返してきた。

「僕は転んだことなんてないよ。レアナと違うから」

 僕がそう言うと、レアナは口を尖らす。

「私も転ばないもの」

 それは嘘だ。この前も転んだのにと思ったけれど、僕は黙っていた。



「あのね、これ、誕生日のお祝いなの。お母様のお手伝いをしてもらったお小遣いで買ったのよ。ほら、セザルを産んだばかりでお母様は大変だから」

 レアナから渡されたのは小さな袋だった。そして、とても軽い。それでも僕はとても嬉しい。

「ありがとう。僕もこれ、昨日のお詫びに」

 俺がおずおずとリボンの入った袋を差し出すと、リアナは最初驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうな顔になった。

「開けてもいい?」

 待ちきれないというようにレアナは僕に訊いてきた。

「もちろんだよ。僕も開けるね」

「はい。どうぞ」

 レアナの許可が出たので、僕は袋を破かないように慎重に開封した。小さな袋だってレアナが贈ってくれたものだ。宝物に違いない。


 袋の中には細い鎖のついた銀色の小さな札が入っていた。竜騎士が付けている楕円形の認識票と違って、角が少し丸くなった長方形だけど、大きさは同じぐらいだ。よく見ると、僕の名前と誕生日が刻印されている。

「竜騎士の認識票と同じ形のは作っては駄目なんだって。だから四角なの。前に街の雑貨店へ連れて行ってもらった時見つけてね、ジョエルへの誕生日のお祝いはこれしかないと思ったの。だけど、二日も遅れてごめんなさい」

 レアナが小さく頭を下げた。僕は感激していたので言葉にならず、ただ頭を横に振っていた。


 そして、僕は父がしているように銀の札の鎖を手首にまいた。

 嬉しくて、誇らしくて、僕は泣きそうになっていた。

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