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レアナがくれた銀の札

 友達を失ったからといって、僕は竜騎士になる夢を諦めることなどない。そんなやわな思いで竜騎士を目指した訳ではないんだ。

 部屋に帰って自分の椅子に座り、僕は小さな机の抽斗(ひきだし)からレアナにもらった銀の札を取り出した。六人部屋の奥の真ん中。そこが僕の城。そして、小さな抽斗だけが私物を入れておける僕だけの場所だった。


 レアナはこれから先、力ある聖乙女として数々の竜騎士の武器や備品を祝福するだろう。しかし、彼女が一番最初に祝福した竜騎士の備品はこの銀の札になるんだ。僕が絶対に竜騎士になってそうしてやる。

 僕はレアナの祝福した札を握りしめる。そうすると、レアナの聖なる力が僕の鬱屈した気分を晴らしていくようだった。


「何をしているんだ?」

 そう言って、僕の後ろから覗き込んだのは同室のカルロだ。王都の裕福な家庭の出身らしく、十一歳になっていることもあり私塾出身の中で一番威張(えば)っている。僕はそんなカルロを苦手としていた。

「何でもない」

 僕は銀の札を隠した。一年もほどもかけてレアナが買ってくれた大切な札だ。カルロになんかに絶対に見せたくない。


「おい。竜騎士の息子さんは、俺たちに隠し事があるらしい」

 カルロは同室の四人にそう声をかけた。私塾の仲間でもある四人は、カルロの呼びかけに応えてすぐにこちらにやってくる。

「違う。これは大切なものだから」

 力を入れすぎないように気をつけながら、僕は両手で札を隠した。札はそれほど厚くない。あまり力をかければ曲がってしまう。

 レアナが僕の誕生日に贈ってくれて、レアナが神殿へと旅立った日に祝福してくれた、僕の何より大切な宝物なんだ。

 絶対に傷つける訳にはいかない。


「だから、見せてみろって言っているんだろうが。それとも竜騎士の息子さんは、俺たちみたいな庶民と慣れ合うつもりはないか?」

 カルロたちは私塾へ行っていないリカルドを庶民だと馬鹿にしていたのに、今更自分たちを庶民だというのかと呆れた。

 でも、今はとにかく札を無事に抽斗に仕舞うことを考えなければ。

 この抽斗には魔法鍵がかけられているので、僕以外開けることができないんだ。


「そ、そんなつもりはないよ。父さんが誰であろうと、僕は僕だから」

 家が裕福で私塾に通っていたことを鼻にかける奴に、父の職業のことをとやかく言われたくはない。僕は刺々しくならないように気をつけながら、僕はただの竜騎士訓練生であるとカルロたちに伝えようとした。

「ふん、どうせ、ここにも父親のコネで入って来たんだろう。不正合格者のくせに偉そうにするなよ」

「そんなことある訳ない! 竜騎士の息子だって、コネで竜騎士訓練生にしてもらえる筈ないじゃないか」

 竜は誇り高い生き物だ。不正して竜騎士になろうと思うような奴を背に乗せたりしない。僕の父だって誇り高い竜騎士なので、不正をして僕を竜騎士にしようなどとは絶対に思わない。もしそんなことをすれば、エルネストに見限られてしまう。


「とにかく見せろって」

 カルロが僕の腕を掴む。他の奴らも僕の体を押さえて動けないようにしてきた。

 そして、カルロが無理やり僕の手を広げようとする。

 身体強化して抵抗しようと思ったが、手に力を込めすぎると銀の札が曲がってしまう。


 僕が一瞬ためらっていると、カルロが僕の手を広げて銀の札を取り上げ、まるで仕留めた獲物のように手を掲げて皆に見せびらかした。

「まさか、竜騎士の認識票か!」

 誰かが叫ぶ。

「嘘だろう。すげー」

 銀の札に気を取られたのか、僕を押さえ込んでいた手の力が緩んだ。


「返せよ!」

 僕は四人を振り払うようにして椅子から立ち上がる。

 カルロは僕の勢いに押されたのか、少し後ろへ下がった。手は上げたままだ。


「いや、竜騎士の認識票じゃない。形が少し違うし、そもそも竜騎士の紋章がない」

 銀の札を見上げていたカルロがそう叫ぶ。

「何だよ。まがい物かよ。びっくりした」

「竜騎士の息子さんは、こんなものをおもちゃにしているんだ」

「驚かせやがって」

 同室の奴らが何か言っているが、僕はそんなことに構っている暇はない。とにかく札を取り返さないと。


「返せ! 大切なものなんだ」

 僕は勢いをつけてカルロに突撃した。

 僕の頭がカルロの腹にぶつかって、カルロはよろめき尻もちをついてしまう。僕は慌てて銀の札を取り上げようとした。


「ふざけんなよ! こんなものこうしてやる」

 カルロが両手で銀の札を持つ。そして、ゆっくりと曲げていった。本当は素早く曲げたのかもしれないけれど、僕には止まりそうなほどの速度に思えた。


 リアナのくれた銀の札が、無残に姿を変えていく。


「止めろ! レアナが贈ってくれた札だぞ! レアナが祝福してくれたんだ!」

 僕は無意識で身体を強化をしていた。

 僕の周りが熱くなるのがわかる。怒りがそのまま炎の魔法に変わっていたんだ。

 息もできないほど熱い。


 僕は青白い炎をまとってカルロに突進した。

 他の奴が慌てて冷却魔法をかけていたので、部屋には被害がない。


 ドォーン


 大きな音がした。そちらの方を見るとカルロが壁に押し付けられたような格好になっていた。

 僕がカルロを持ち上げて壁に放り投げたんだ。

 これでもまだ足りない。レアナの銀の札を壊しだんた。カルロも壊してやる。


「何をしている!」

 突然部屋のドアが開き、寮長が入って来た。

 寮長はアウレリオという瑠璃色の美しい竜に乗っていた元竜騎士だ。竜騎士団の団長まで務めた凄い人なんだけど、竜騎士引退後、竜騎士の育成にかかわりたいと、訓練生の寮の総責任者を務めている。奥さんは元聖乙女で、今はここの寮母さんだ。


 寮長が現れても、僕の怒りの炎は収まらなかった。 

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