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幼馴染のレアナ

 昨日、僕は八歳になった。これで今年の竜騎士訓練生選考会に応募することができる。竜騎士養成所へ入所するための選考会に挑戦する機会は、八歳から十二歳までの間で三回のみ。時期をよく考えて選考会に臨まなくては、竜騎士になることは叶わない。 

  

 僕の父親は竜騎士だ。僕の国にはたった十三人の竜騎士しかおらず、その中の一人が僕の父なのだから、とてもすごい人なんだ。父が騎乗する竜の名前はエルネスト。竜騎士団の第九番竜で土色をしている。地味な色目なのであまり人気がないらしいけれど、僕は最高に格好良い竜だと思う。

 エルネストに乗せてもらうたびに、僕も竜騎士になりたいとの思いは募っていった。


 竜騎士訓練生選考会への応募資格を得たので、さっそく挑戦したい気持ちはある。しかし、僕は悩んでいた。

 僕たち一家は竜騎士団の基地内にある官舎に住んでいる。竜騎士は竜からあまり離れることができないので、ここに住むことは義務なのだ。

 竜騎士訓練所も基地内にあり、距離的には歩いて行けるほど近い。しかし、一旦竜騎士訓練所に入所すれば、年に二回の定期帰宅期間以外は、家族の結婚式や葬式でもない限り帰宅は許されない。それは、竜騎士の家族であっても同じだ。

 今年選考会に応募してもし合格すれば、僕はこの家を離れなければならない。


 僕はそんなことを悩みながら庭を歩いていた。

 官舎といっても、竜騎士の家は広い庭付きの一軒家だ。隣も同じ竜騎士一家が住まう官舎で、両家の庭はつながっていて、真ん中には区切りの低い柵があるが、一部が取り払われていて自由に行き来できるようになっている。

「ジョエル、何をしているの?」

 お隣の裏口から少女が走り出てきて、僕に手を振っている。彼女の名前はレアナ。僕より一歳と三か月後に産まれたので、レアナはまだ六歳である。

 彼女は少し背が低く、僕の五歳の弟と身長が同じぐらいだ。そして、レアナは魔力が全くないから魔法を使うことができない。レアナの父であるカイオさんに魔法を込めてもらった金のカードがなければ、彼女は普通の生活をするのも難しいぐらいだ。玄関の扉だって開けることができないし、ランプにも着火できない。


 そんなレアナだけど、彼女はとても明るくて元気だ。

 今も満面の笑みでこちらの方へ走ってくる。

 その笑顔をいつまでも見ていたい。そして、彼女の笑顔を守りたいと僕は思っていた。


 竜騎士になることができると、その証である銀の認識票を手首に着けることになる。そして、それと対になる金の認識票がもらえるのだ。それは竜騎士の最愛の証。レアナのお母さんであるルシアおばさんも魔力を持っていないので、カイオさんの魔力を込めた認識票を身に着けている。僕の母も父から贈られた認識票を宝物のように大切にしていた。

 だから僕は、僕の認識票をレアナに渡したいと思っているのだ。


「走ったら危ないぞ。転んでも知らないからな」

 柵の切れ目を通り過ぎて僕に近づいてくるレアナを見て、僕はひやひやする。

「転んだりしないもの。私はお姉さんになったのよ」

 ルシアおばさんは六年ぶりに出産をして、レアナには弟ができた。彼女はそのことをとても喜んでいるが、ルシアおばさんが弟に取られてしまったようで、少し寂しそうにしている。

 僕はお姉さんぶって生意気な彼女を驚かそうとして、風魔法を放った。僕の一番得意の魔法で、竜騎士になるには必須の魔法だ。


「きゃ!」

 やばい! 少し魔法が強すぎたようだ。レアナのスカートがめくれそうになり、それを抑えようとレアナはバランスを崩した。

 僕は思わず走り出し、彼女を支えようとした。しかし、間に合わない。仕方ないのでレアナの下に滑り込むように身を入れた。掌を擦りむいたが、これぐらいなら僕の回復魔法で何とかなる。

 背中にドンとした衝撃があり、レアナが倒れこんできたことがわかった。僕の背中の上なので大した怪我はないだろう。

「ジョエル、ごめんね」

 実際、彼女に怪我がなかったらしく、背中の重みはすぐになくなった。 


「ジョエル、何をしている!」

 僕がレアナに怪我がなかったことを安堵していると、ちょうどカイオさんが帰ってきた。夜の哨戒飛行担当だったらしく、昼前の今頃に帰宅して、レアナの悲鳴が聞こえたので庭の方に回ったらしい。

 僕はゆっくりと立ち上がり、ズボンの土を掃った。

 魔力がないレアナにはわからないだろうが、カイオさんには風魔法を使ったことがバレているだろう。僕は謝ろうとしたが、

「お父様、何を言っているの? ジョエルは私を助けてくれたのよ。それなのに怒鳴るなんてひどいわ! お母様に言いつけてやるから」

 カイオさんは史上最年少の十九歳で竜騎士になった凄い人で、体も大きくとても迫力がある。しかし、ルシアおばさんやレアナにはとても弱く、『俺には味方がいない』とたまにボヤいていた。


「し、しかし、ジョエルは」

「言い訳は結構よ。お父様なんか大嫌い!」

 舌を出しながらレアナは僕の後ろに隠れてしまう。カイオさんは僕を殺しそうな目で睨んできて、とても怖かったが、僕にはその理由がわかっていたので黙って頭を下げた。

「レアナ、ちょっと、俺の話を聞いてくれ」

 しかし、レアナは俺を睨んでいるカイオさんのことが許せないらしく、

「お父様のことなんか知りません。ジョエル、手を擦りむいているわ。あっちへ行って、お水で洗いましょう。それから、回復魔法を使ってね」

 レアナは俺の腕を掴んで水道のところまで連れて行こうとする。

 僕は呆然としているカイオさんに再び頭を下げて、レアナに引っ張られるようにその場を後にした。


「ジョエル、水道を出して」

 庭の水道は魔力がなければ使えない。レアナが持っている金のカードの魔力では無理なのだ。

 僕は水魔法で水を汲み上げた。僕が両手を水に差し出すと、レアナはそっと僕の手のひらをこすって土や草を落としてくれる。

「掌はきれいになったよ。今度は回復魔法を使ってね」

 レアナに請われるまま、僕は自分自身に回復魔法を使った。元々傷は大したことがなく、見る見るうちに傷は塞がっていく。

「やっぱり、ジョエルは凄いわね」

 感心したように僕を見るレアナの笑顔が嬉しくて、でも、罪悪感もあって、僕は彼女から顔を逸らしてしまった。


「やっぱり、お父様のこと怒っている? 本当にごめんね。助けてもらったのに」

 僕はやっぱり黙っていることができなかった。

「僕の方こそごめん。僕はちょっとレアナを驚かせようと思って、風魔法を使ってしまった。だから、レアナが転びそうになったのは僕のせいなんだ」

 レアナは怒るだろうなと思ったけれど、それでも、正直に言えたことは良かった。


「そっか、だからお父様は怒ったのね。ジョエルは私のスカートをめくろうとしたの?」

「違う! 僕はちょっと驚かせるつもりだったんだ。スカートをめくろうとした訳じゃない」

 神に誓ってそんな意図はなかった。僕は盛大に首を横に振る。

「まぁ、いいわ。私を助けてくれたし、許してあげる」

 首を傾けて僕を見上げながらレアナはそう言った。僕はその笑顔が本当にまぶしく感じて、

「ありがとう」

 小さな声で礼を言うのが精一杯だった。

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