30.校外学習二日目【魔法での対処】
つい先ごろ、セクルト貴院校で教わったばかりの魔法だ。
フィーナが教わった魔法は、心地よい、そよ風を起こす程度のものだったのだが「改良の余地、あるんじゃない?」と疑問視したフィーナが独自に手を加えて、先ほどの結果となっている。
ニックは呪文から想定される魔法と現状との差に、明らかに動揺していた。
その隙にフィーナはオリビアの元へと急いだ。
途中にも護衛騎士が配置されていて、その場所もフィーナは把握しているが、そこには生徒がいるかもしれない。
関係ない者を巻き込みたくないし、何より、騎士であるニックが伴魂強奪を試みているのだ。
どこに仲間が――どの騎士が仲間であるのか、知れたものではない。
信頼がおけてニックを退ける力ある者――。
オリビアしか、フィーナは思いつかなかった。
オリビアが護衛騎士の統率をとっている関係で、彼女の元には途中途中に配置されている騎士より人手が集まっているはずだ。
「それでいいんでしょ!?」
フィーナの思考は伴魂にも向けていたので、白い伴魂にも意志は届いているはずだ。
何度声をかけても、意識下で問い掛けても、返事のない自身の伴魂に、フィーナは苛立ちを募らせていた。
伴魂が狙われた時――狙う輩と遭遇したときの対処法は、森での不審者と遭遇してから、伴魂からしつけられている。
事情を知るらしいザイルからも、それとなく護身術らしきものから魔法まで、多岐に渡る対策の指導を受けていた。
白い伴魂、ザイルが対処法の基本理念として総じて口にしていたのは「虚をついて逃げろ」だった。
自分で対処しようとするな。
対処できると思うな。
奢るな。
不意を打ってとにかく逃げろ。
特定の人物に頼らず、人が多数存在する場所に逃げ込め――。
伴魂を欲する者なら、関係ない人々を巻き込む状況を忌諱するだろう――。
……と。
ドルジェの森で指導されていた行動をとりながら、フィーナは伴魂に問い続ける。
フィーナは、ドルジェの森で遭遇した黒マントの男以降、伴魂を狙う輩と遭遇したことはない。
フィーナの知らないところで、ザイルもしくは伴魂が対処してくれていたのかもと思ってはいたのだが、伴魂、ザイルどちらからもそうした話を聞いたことはなかった。
初めての対応に、伴魂強奪時での対処法を指導した自身の伴魂に、幾度となく「これでいいのか」と伺いを立てているのに、明確な返事はなかった。
フィーナの伴魂、白いネコは、どこか上の空だった。
(――『……そうだな』)
ぽつりと意識下に送られてくる、他人事のような伴魂の返事に、フィーナの怒りが沸点を超えた。
(――いい加減にしてっ!)
意識下の話でも、互いの聞こえ具合は小声から、耳をつんざく大声からと、感じる大きさは異なる。
フィーナが伴魂に送った意識下の声は、耳鳴りを覚えるほどの大声だった。
考えごとをしていた白い伴魂は、不意を打って叩きつけられた、主の意識下の声に、目を白黒させた。
(――『……なっ……!』)
(――ちゃんと答えてよっ! どうしたらいいか、わかんないんだよ!?)
ニックに対して、黒マントの男ほどの恐怖心は感じていないものの、不安はぬぐえていない。
精いっぱいの疾風遊戯を放ったので、ニックは立つことも困難な暴風の中にいる。
しばらくは時間稼ぎができるだろうが……女児と騎士との駆け足の速度の違いでは、いずれ追い付かれてしまう。
そうなる前にオリビアの元にたどり着きたいのだが……ギリギリか……間に合わないか……。
フィーナの焦りと困惑、不安がない交ぜになった感情は、伴魂にも伝わった。
小さく息をつくと、意識下でつぶやく声が聞こえた。
(――『夜闇に遍く銀環の粒 被覆の腕にその身を抱け』)
「――景惑なる闇衣」
手ごろな樹木の根元に座って、伴魂の言葉を次いで呪文を唱える。
声に反応して、一瞬、目の前の景色がぶれたように見えた。今も透明な布を頭から被ったように、目の前の景色が微妙に揺らめいている。
姿を隠す魔法だと、伴魂が言っていた。
姿も気配も存在も、魔法の効果がある場所を、外からでは見えない、感じない、触れないのだという。
この魔法は対象物ではなく、空間に作用するため、効果のある場所の中から少しでも何かしらが外に出てしまうと、効果はたち消える。
範囲外に出ない限り、効果は一日はもつという。
いつも6時の時間帯にUPするよう、していましたが、今日は仕事の都合で早めにUPしてます。
魔法は考えるのが苦手です……。
前詞は他で言うところの「詠唱」部分です。
そう言えば、前詞部分出したの、初めてだ。