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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第三章 アールストーン校外学習
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29.校外学習二日目【フィーナの答え】


 珍しい伴魂は狙われやすい。


 耳にタコができるほど聞いていたので、ニックが告げる事柄も、自分でも驚くほどすんなりと受け入れられた。


 それでも、戸惑いを禁じえないのには理由があった。


(どうしよう……全然、怖くない)


 剣を首元に付きつけられている状況だと言うのに、フィーナは恐ろしさを微塵も感じなかった。


 常日頃「珍しい伴魂は狙われやすい」と、薄い緊張を体に纏わせる日々を送ってきたからだろうか。


 静やかに警戒を怠らない日々を送り、どういった面々が白い伴魂を狙ってくるだろう、どうした意図があるだろうと、考えうる状況を幾度となく想定してきた。


 想定しつくすほど、常日頃、考えていた。


 ――だと言うのに。


 フィーナが初めて対峙する「伴魂よこせや、この野郎」的な人物は、想定していた内容のど真ん中の行動を起こした人間だった。


 それだけではない。


 ニックが騎士然としていることもあって、容姿に関しても恐ろしさを感じないのだ。


(あの時みたいに――)


 ドルジェの森で遭遇した黒マントの男。


 思い出しただけでも、フィーナはぞわりと全身が粟だった。


 黒マントの男は、どう言えばいいのかわからない、得体の知れない気味悪さがあった。


 それだけでなく、状況によっては命を屠ろうとの意志もほの見えた。


 黒マントの男と遭遇した時は、フィーナは自身の伴魂のことも、魔法の指導も体力鍛練、護衛術指導も受けておらず、身を守る術を何も持っていなかった。


 だから、黒マントの男に恐怖し、日頃から鍛練を行っている今現在では、ニックに恐れを感じないのだろうか――。


 そうした思いを巡らすフィーナに、ニックは「譲って頂けますね?」と剣に日を当て効果的に光らせながら、脅してきた。


(――ねぇ)


 ニックと対峙しながら、彼の動向を伺いながら、フィーナはずっと自身の伴魂に、意識下で声をかけていた。


 ニックが剣を突き付けてからずっと呼んでいるのに、伴魂からは何も返事はない。


 動きさえない。


 静観しようとする意思を感じて、フィーナはため息をついた。


 意識下でため息をついたつもりだったが、実際に、実体がため息をついてしまった。


 フィーナの行動を見て、勘違いしたニックが嬉々とした表情を浮かべる。


「受け入れて頂けますか」


(そんなこと言ってないのに……)


 疲労感を感じつつ、フィーナは意識下で伴魂に問い掛けた。


(――これで聞くの最後。どうする? 五つ数えて返事がなかったら、好きなようにするから)


 それでも、伴魂の返事はなかった。


 腕に抱いた伴魂を見ると、ニックを注視しているのはわかる。


 わかるが、なぜか何も言ってこない。


 このままでは状況を打開できないのでフィーナは提案したのだが、それにも伴魂は反応を示さなかった。


(――3……2……1……)


「……ゼロ」


「ゼロ?」


 脈絡のない言葉に、ニックは反射的に反芻していた。


 そのニックに、フィーナはにっこりと微笑んで告げる。


「謹んで。お断りいたします」


「…………なに?」


 てっきり受け入れてくれると勘違いしていたニックは、フィーナの言葉を理解するのに少々時間を要した。


 誰も「了承」とは伝えていない。勝手に勘違いをしたのはそちらだ。


 思いつつ、生じたスキをフィーナは見逃さなかった。


 フィーナは不意を打って膝を折ってしゃがみ込むと、突きつけられたニックの剣の下をすり抜けて、彼の腹部へ体当たりする。


 フィーナの想定外の行動、思いのほか俊敏な行動に、虚を突かれたニックは体当たりをまともに受けて体勢を崩し、後方へとたたらを踏んだ。


「な……っ!」


「――千風の奔流 集いて奔放不羈ほんぽうふきなる道を示せ」


 小声で呟きながら、ニックの脇を駆けて抜ける。


「待っ……!」


 後を追おうとしたニックに、距離をとったフィーナは振り向いて掲げた腕をニックに向けた。


疾風遊戯ヴェルヴィン!」


 暴風が、ニックに吹き付ける。


 周囲の落ち葉や小枝、折った枝をも巻き込んだ突風に、ニックは体勢を崩して尻もちをつく。


 吹き付ける木の葉や枝、何より強風に目を開けているのが困難となり、腕を顔前にかざしてそれらを防いでいた。


前詞アンセルなしで……! これが疾風遊戯ヴェルヴィン……!?」


 驚愕し、それがまた行動を鈍くした。


前詞アンセルは唱えてるんだけどね!)


 気付かれないように小声で唱え、いつでも呪文ルキで発動できる状態に据え置いた。


 あとは呪文ルキを唱えれば発動するので、前詞アンセルに気付いていなかった輩には、呪文ルキで発動したように見えるのだ。




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