27.校外学習二日目【不穏な動き】
※7/28 すみません。UPして早々、サブタイトル【】の中、変更しました。
7時38分ころ、変更しています。
――ふと、自分はどうなのだろうと、カイルは思った。
オリビアもアルフィードも、自身の伴魂と信頼関係を築いている。
自分は――。
「――様、フィーナ・エルド様」
不意を打って聞こえた声に、過去の記憶に思いを馳せていたカイルは、ハッと我に返った。
声の方を見ると、騎士姿の男が、椅子に座ってくつろいでいるフィーナに声をかけていた。
(――――?)
騎士の男を見て、カイルは眉をひそめた。
「王女様が協力を願いたいとお呼びです」
「そうなのですか?」
「――ちょっと待て」
席を立って付いていこうとするフィーナを、カイルが止める。
「え?」と首を傾げるフィーナを見ることなく、カイルは騎士の男を注視していた。
「――姉上は何とおっしゃっていた」
「いえ、私は内容までは伺っていませんので……。
連れてきてほしいと頼まれただけです」
「所属と名は」
「ガーヴィス隊所属、ニック・クラントと申します」
答える騎士に、側にいたカイルの護衛騎士、アレックスが「――確かです。顔も見知っています。本人に間違いありません」とひそめた声で進言する。
だが眉をひそめて「――今回、同行しているとは思いませんでしたが」とも付け加えた。
セクルト貴院校生徒の護衛騎士は、オリビアが統率をとっている。オリビアが受け持つ騎士団だけでは到底足りないので、他の騎士団にも要請して、編成していた。
そうした関係で同行しているのだろうが――彼が所属する騎士団は、オリビアとそれほど親しくないので、要請を頼んだとは思えなかったのだ。
カイルも騎士団の上層部は記憶している。
末端は入れ変わりが激しいので、全てを把握しきれていない。
カイルがいぶかしんだのは「オリビアが呼んでいる」というのに、オリビアが受け持つ騎士団の者ではなかった点だ。
オリビアの騎士団員は全て把握している。
オリビアの性格上、自身の騎士団の者を派遣しそうなものなのだが――。
現にサリアもジェフも、応援を請われた際、オリビア所属の騎士の者が迎えに来ている。
そうしたカイルの疑念を感じたのだろう。
フィーナを呼びに来た騎士は戸惑いつつ、事情を話した。
さ
オリビアも彼女統括の騎士団面々も、手が離せない状態らしい。無理をすれば行けるのだが、受け持っているものが中途半端になるので、仕方なく近くにいた彼に頼んだという。
「――アレックス」
フィーナに同行するよう促すと、アレックスはカイルの意向に伴い、すぐ動こうとしたのだが、呼びに来た騎士に慌てて止められた。
「そんな、王子の護衛騎士の方を――。
王子の警備が少なくなります」
「大丈夫だ。もう一人いるし、生徒も徐々に帰ってきている」
「しかし、それでもしものことがあれば、私が咎められます」
その可能性はあったので、カイルも強く出ることができなくなった。
そうした問答を、フィーナが不思議そうに見ていた。
「カイル? 私なら大丈夫だよ。
コースは地図を見なくても覚えてるし、迷子にはならないから」
道に迷う心配をされているのだと思って、へらりと笑うフィーナに、カイルはあぜんとした。
「お前が――」
(――お前が以前『伴魂を狙われたことがある』と言ったんだろ)
珍しい伴魂を狙うとすれば、地位も金銭も持っている輩だろう。
珍しい伴魂は、基本、貴族籍の面々が取得している。
貴族籍には手出しできないが、市井の民で珍しい伴魂を取得していれば、強硬手段で取り上げる輩がいると、カイルも噂で聞いていた。
噂では聞いていたが、スーリング祭でフィーナの過去を聞くまでは眉つばの話だと思っていた。
フィーナの話で、実際に存在するのだと思って、すっと足元が寒くなったのを覚えている。
その後、フィーナの伴魂が想像以上に注目を集めていること、暗躍が想定される輩が存在する現状を耳にしていた。
そうした状況なのだが、フィーナが「大丈夫」という以上、カイルも口出しできない。
(騎士団の一員だというから、下手なことはしないだろうが――)
フィーナはスーリング祭にも参加していて、国王とも面会している。
国王はフィーナをよく知らなくとも、珍しい伴魂に関しては記憶に残っているだろう。
国王は契約済みの伴魂の強奪を快く思っていない。
国王の意向は貴族籍には広く知られていた。
そうした国王の意向を知りながら、貴族籍の人間が、フィーナの伴魂を強奪するとは思えないが――。
騎士団に所属していると言うことは、身元も確かなのだろう。アレックスも見知っているのだから、身元に関してはより確実だ。
自身のことを知られた上で、下手なことはしでかさないだろうと希望的に思いつつ、カイルはなぜか違和感を拭えなかった。
胸の内にくすぶる感情を抱きながら、迎えに来た騎士に連れられる伴魂を伴ったフィーナを見送ってしばらくしたとき、アレックスの元に慌てた騎士の一人が駆けつけた。
アレックスも、どうにも「おかしい」との違和感が拭えず、近場にいた騎士に、今回派遣された騎士の確認をとっていたのだという。
慌てた騎士の返事を聞いて、アレックスも顔色を変えた。
「――殿下っ!」
アレックスがもたらした情報に、カイルも顔色を変えた。
――フィーナを連れ立った騎士は、今回、校外学習に派遣された騎士リストの中に名がなかった。
ざわりと総毛立つ感覚に息をつめて、カイルは反射的に叫んでいた。
「アレックス、レオロードっ!」
自身の護衛騎士の名を呼んで、フィーナの後を追おうとしたカイルを「いけませんっ!」とレオロードが止めた。
「エルド嬢を追ってはなりません!」
「どけ、レオロード!」
怒鳴りつけて、レオロードの脇を通り抜けて無理矢理フィーナの後を追おうとしたカイルを、今度はアレックスが行く手を遮った。
「なぜ止める!」
「そりゃ止めますよ!」
告げるアレックスもフィーナを気にしているらしく、二人が行った方向に目を向けながら、焦りをにじませている。
「身元が確かな、同行しているはずのない騎士がこの場にいるんですよ!
何かあったら疑われても仕方ないのに行動に移している。
先のことを考えずに行動しているとしか思えないじゃないですか!
そうした人間は何をしでかすか、わかったものじゃないでしょう!」
「だったらっ! フィーナが危ないだろう!」
「ええ、確かにっ!
確かにそうですっ!
けど俺たちは殿下の護衛騎士です! 殿下の安全が第一なんです!」
アレックスは真面目一辺倒のレオロードと違い、気さくな面も有している。
許容範囲内なら目をつぶってくれることも多々あるアレックスが、カイルの行為を許さない状況に、緊迫度合いが高いのだと知れた。
カイルを止めながらも、アレックスもレオロードも、フィーナを案じて、近場にいた騎士や生徒を通じて、オリビアに状況の伝達を頼んでいる。
「エルド嬢を追って、殿下にもしものことがあれば、エルド嬢の立場も危うくなるのですよ!?」
「俺が勝手にしたことだっ! フィーナには関係ないっ!」
それでもフィーナの後を追おうとするカイルを、アレックスとレオロード、カイルの行動を止めることを請われた近場に居た騎士数人で、行動を封じた。
「どけっ!!」
叫びは虚しく、フィーナの後を追おうとするカイルは、動きを封じられていたのだった。
やっと!!!
書きたいところへたどり着きました!!!!
スーリング祭で書きたかった流れと少々異なりますが。
第三章の佳境となる部分です。
今も下書き書きながら、想定してた筋書きと異なりつつ、話が勝手に進みつつ(笑)。
……といった感じです。
勝手に動いてくれるので「あれ、そうなるの?」と、自分でも驚きながら書いてます。
前回の「アルフィードの機転」もそうでした。
「え。そういうことするの。そういう流れにしちゃうの。どういう搦め手よ」と、自分でも驚くこと、多いんですよね。
オリビアが言った「卑怯」ってのは、ほぼ、私の心情でした。
……ってことで、佳境です。
下書き書き終えてませんが、上手く着地できるよう、がんばります。
(できなかったら手直し、時間かかる……(汗))