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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第三章 アールストーン校外学習
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25.校外学習二日目【カイルの悩み】


「大丈夫」との答えに、フィーナは少々考えて、首をかしげた。


「何が大丈夫?」


「……何が?」


「……えーと……」


 思っていることを上手く言葉にできない、そんなもどかしさを伺わせながら、自身が思っていることをたどたどしく口にする。


「カイルが悩んでたこと、答えが見つかって『大丈夫』ならいいんだけど。

 我慢してる、我慢しなきゃいけない『大丈夫』だったら、ホントの大丈夫じゃない。

 ……って、思ったから」


 ――驚いた。


 ただ純粋に、カイルは驚いていた。


 我慢している。


 そうした認識は、カイルも考えていなかった。


 アルフィードに関して自分でも制御できない、胸の内にうずまく感情を押し殺すのに精いっぱいだった。


 自分でもおかしな行動をとっていると認識もあった。わかっていたが、どうしようもないほど、カイルは心乱れていた。


 学び舎にあっては、人の模範となるよう行動しなければならないと自分を律していた。


 王族の立場として、自身を戒めていたのだが、こと、アルフィードと騎士団青年のやりとりを目にしてからというもの、自分の言動を御しきれない認識を持ったカイルは、アルフィードを思考の外に追いやることで、どうにか自制心を保っていた。


 意識して「考えない」「見ない」ようにすることで、アルフィードの件から暫定的とはいえ立ち直れたのだ。


 周囲の反応も、カイルにはわかっていた。


 起因するものが何だったのかを知る者はいなかったが「いつものカイル」に戻ったことに、側仕えの警護騎士を含めて、安堵していたのをカイルも知っている。


 カイルとしては「原因に対処していない」ことを、フィーナから聞くとは思っていなかった。


 我慢、しているつもりはない。


 対処しようにも、無理だとカイル自身わかっている。


 アルフィードへの想いは、自分が勝手に抱いたものだ。


 自分の気持ちを整理する為に想いを告げられても、アルフィードはどうすることもできない。


 断ることは――無理だろう。


 アルフィードがどのように思っていたとしても、王族の要望は、相手の想いなど関係なく遂げられるべきものなのだから。


 そうなったとき、アルフィードが困るのは、カイルも理解している。


 それだけではない。


 万が一、アルフィードが想いを寄せてくれたとしても、身分的な問題から、彼女を優遇することもままならない。


 ――つらい状況にさせるとわかっていながら、アルフィードからの想いがあってもなくても、妃的な立場を望むことを、カイルは考えられなかった。


 アルフィードへの想いを、どうにかやりすごしている時分でのフィーナの発言は、カイルの心情を逆なでした。


 落ち込んだり、いつもと違ったことがあったにしても、自分だけでどうにか解決しようとしていたところへのフィーナの発言は、寝た子を起こすようなものだった。


「だったら何だと言うんだ。関係ないだろ」


 不機嫌を露わに顔を背けて告げると、フィーナも感じるところがあったようで、それ以上、追及はなかった。


 ただぽつりと「困ってることあったら、言ってね」と告げた。


(話せるわけないだろ)


 アルフィードの件でなくとも、カイルが抱く悩みのほとんどは、人には話せないものが多い。


 ――「伴魂に優劣があるのですか?」


 不意を打って脳裏に甦ったアルフィードの声に、カイルは「……どうしようもないな」と苦笑をもらした。


 アルフィードへの想いに封をしようとしても、こうして想いを馳せてしまうのだから。


 記憶の中でアルフィードが口にした言葉は、過去のものだった。


 周囲の人間が、兄の伴魂とカイルの伴魂を比べて、遠回しに優劣を口にする。


 今もその声はいくらか存在するが、以前ほどは耳にしない。カイルは幼いころは顕著だった。


 幼いカイルにはわからないだろうと、暗に含んだ物言いをしていたが、話している当人の感情は、声や表情から感じ取れるのだ。


 幼いなりにも、カイルは苦い思いを抱いていた。


 それはアルフィードと出会った時、素直な賛辞を受けてからも同様だった。


 少しは前向きに考えられたが、気にしない域までにはいかない。


 アルフィードと偶然居合わせた後、オリビアの友人として紹介された後もそうだった。


 何かの時、オリビアと同席していた時に、彼女らと同じ年頃の者が伴魂の話をしていた。


 その時に、第一王子の伴魂の雄々しさを褒めそやした。


 第一王子の伴魂はすばらしい。


 それに比べて――。


 との話をする彼らに、カイルは悔しさから俯いて、両手を握りしめていた。


 オリビアも眉をひそめる中、アルフィードが興味深そうに彼らの話を聞いていた。


「私は殿下の伴魂を存じ上げないのですが、それほど素晴らしいのですか?」


 そう声をかけて話を聞く。声をかけられた方も、自分のことのように自慢げに語り出した。


 力が強く、並みの伴魂なら簡単に捩じ伏せてしまう。


 国内の伴魂でも、力のある伴魂だろう。


 ――と。




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