21.校外学習初日【レクリエーション運営】
問題に散りばめられた知識を感じ取った生徒から、ちょっとした羨望を得られれば儲けもの。根源にあるのは、わたわたと問題やルートに振り回される生徒を生ぬるい眼差しで眺めて、楽しもうという心づもりなのだ。
そうした思惑は、何度か行った打ち合わせ時に勘付いていた。困ったことも弊害もないし、何より、自分たちの仕事が減るので、騎士団面々の申し出はありがたく承った。
「あなたたちも参加しなさい。実力、見てあげるから」
挑発的にほくそ笑むオリビアの提言で、通年、運営する関係でレクリエーションには参加していなかった運営陣も、今年は他の生徒と同じ立ち位置で参加することとなったのだ。
サリアが告げた、翌日の「レクリエーションの最終確認」は、開始時間、終了時間の確認だった。
一斉に始めることはできないので、一班目が出立して五分後に次の班が出立、二班目は一班目と異なるルートを辿る……など、コースがいくつか分けられており、中途も問題の解き具合によって異なるので、分岐はかなりの数が想定された。
しかしそれも、決められた範囲内のことなので、統率を取る側が調整可能だ。
運営を請け負ってくれた騎士団面々は、セクルトの先達者、世間一般の荒波に揉まれた輩達だ。心配はしていないのだが……。
「心配があるとしたら、貴族籍の面々がゆえの思わぬ行動と、問題の難易度よね……」
思わぬ行動は、ルートの途中途中に存在する騎士の面々が、ルートから外れた生徒を見つけたら正すようにとされている。
今回は、チェックポイントを正確に割り出すことが目的ではない。
問題の解答率と最速でのゴール到着が、成績に関わっていた。
二つを総合して順位を出すのは難しいので、正解率の順位、時間の順位を別々に出して、それぞれの順位の合計値(順位なので、数字が低い方が高順位)で総合順位を決める手筈となっていた。
レクリエーションをどのように行うかは、校外学習前にセクルトでリハーサルを行っていた。
地図を元にチェックポイントにたどり着くまでは、できるようになっていた。
「本当は地図じゃなくて、記号で示すと面白いんだけどね」
チェックポイントを見つけるまでが、宝探しのようで面白いのだとフィーナは残念そうに告げるが、それをセクルトの一学年生に求めるのは酷だとの判断に至った。
何せ、方角を示す方位棒の使い方もわからない面々ばかりなのだから。中には「北? 南? 何それ」と真顔でのたまった生徒もいたことを考えると、地図自体が問題となるものは無理だろうとの意見で一致した。遭難されても困るのだ。
自然の場になれない生徒にとっては、標識が正しく示してあっても、見逃して、分岐点で「左」に行くべきところを自信満々に「右」を選択する可能性も拭えなかった。……実際、リハーサルで数人、そうした生徒が実在したので、騎士団面々との相談の元、地図の暗号化を断念したのだった。
「当日どうなるかは、そこはなるようにしかならないんじゃない? こっちは考え付く、起こりうるかもしれないことを考えつくして、相談して。やるだけのことはやったんだから、あとはもう『なるようになれ』よ。問題起きたらその時考えよう?」
二日目のレクリエーションの心配をするサリアに、フィーナは手元にある同じ資料を眺めながら告げた。
「とりあえずやってみて、なるようにしか、ならないんだから。心配ばかりじゃなくて、楽しもうよ。私たちも問題解かないといけないんだから」
フィーナの言葉に、カイルもジェフも「それもそうだ」と同意した。
気持ちの切り替えがしきれないサリアは不安げな表情を浮かべていたが、フィーナの言うことも最もだと思って、意識的に気持ちの切り替えを行うよう努めた。
昼食を終えた午後も午前と同様、クラスごと、教師主導の授業となった。