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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第三章 アールストーン校外学習
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19.校外学習初日

  

「ねぇ。こういうの、どうかな?」


 フィーナの一言が、事の始まりだった。


     ◇◇        ◇◇


 アールストーン山岳地帯は、その名の通り、山の中腹に存在する。


 普段、経験することのない山岳地帯で、戦闘などにおける緊急時の生活を経験し、身につけようとの目的が、校外学習の始まりだった。


 想定していたことだが――始まりから波乱含みだった。


「なぜ側仕えの同行が許されないのです!?」


 アールストーン山岳地帯に設えてある、騎士団の鍛練場には、入場時に門をくぐらなければならず、そこで入場規制をかけ、許可ない者は出入りできないようになっていた。


 アールストーン山岳地帯の鍛練場に入場する折、オリビアが統率をとる騎士団が、身元の確認をとっていた。その中で「生徒の側仕えが同行している」との状況に、確認をとっていた騎士団は混乱を経た後、オリビアの名のもと「許可しない」との判断が下された。


「校外学習の理念において、生徒の学びの場に側仕えは必要ないでしょう」


 それがオリビアが出した答えだった。


 校外学習は騎士団の鍛練場を借りて行うものなので、騎士団が「否」としたものをごりおしすることは、基本、できないことだった。


 生徒が乗った馬車がそれぞれのコテージに到着して、荷降ろしをしようとした時に、共にセクルトを出立した側仕えが到着していないことで、事態が発覚した。


 事情を知って怒り猛って真っ先に物申してきたのは、ブリジットだった。


 ブリジットの後方には男女入り混じった生徒が続いている。


 不満を露わにするブリジットの後方に控えているところを見ると、彼女と同じ意見なのだろう。


 ブリジットは貴族籍の中でも上位に名を連ねる家系出身者だ。


 不満のある生徒陣としては、彼女を前面に出すことで、権力威光でごり押しを狙ったのだろうが、残念ながら今回は思惑どおりに事は運ばなかった。


 女学生の学年寮長として、ブリジットから非難を受けたフィーナは、困った顔をした。


「ごめんなさい。私もオリビア様にお願いしたんだけど……」


 嘘ではない。


 当初、側仕えが同行できなくても仕方ないと思っていたフィーナだったが、オリビアが側仕えの同行を許さなかった時の、側仕えと騎士たちの押し問答を目にすると、さすがに可哀そうになって「何人かは許してあげられませんか?」と、オリビアに提言した。


 オリビアはフィーナの提言に、こめかみに青筋を浮かべた、すがすがしい笑顔でこう聞き返した。


「何人か、とは? 誰を? どのような基準で?」


(……うわ……。めちゃくちゃ怒ってる……)


 フィーナもオリビアとの長い付き合いから、感情の機微は感じとれるようになっていた。


 こうしたオリビアを説得することは難しい。


 フィーナは早々に諦めて、オリビアの不機嫌をかうだろう面々を目の前にして、自業自得とはいえ、気の毒に思えたのだ。


 フィーナの本心からの返答は、ブリジット達にも伝わった。


 自分たちのことを考えてくれてはいるのだとの思いを持ちつつ、けれど引き下がれない。


 事前に話を通してなかったのか、なぜこのような事態になったのかとの話に及んだ折、教師やカイル、オリビアの話が出たことで、結局、責任の所在はうやむやになった。


 校外学習の日程もあるので、側仕えの件ばかりにかかってられないのだ。


 結局、側仕えの同行は認められないまま、校外学習が始まった。


 初めはクラスごとに鍛練場での魔法の授業が行われた。


 普段の修練場より広い場所だったので、フィーナが少々はめをはずした、通常より威力の強い魔法を試したところ、ダードリアやカイル、自身の伴魂に叱られた。


 白い伴魂は、校外学習時は常に側にいる手筈となっている。


 授業は場所がアールストーンに変わっただけで、普段と変わりない。


 問題は食事など、自身の身の回りのことだった。


 班に分かれて、あらかじめ通達のあったレシピで作れるよう、班ごとに食材が用意されている。


 仲のいい者同士での班編成になった結果、身分も近しい者同士となっている。


 結果、誰もが調理に携わる結果となり、賑やかな阿鼻叫喚の風景が繰り広げられた。


「楽しそうで、何より何より♪」


 手早く作ったサンドイッチをほおばりながら、フィーナはほくほくと、そこかしこから悲鳴が上がる光景を眺めていた。


 同じ班で同席する、カイル、ジェフ、サリアは一様に、フィーナの発言に眉をひそめた。


「「「楽しそう……?」」」


 揃って口にした胡乱なつぶやきに、フィーナは朗らかに頷いた。


「今は大変でも、後で思い返したら笑い話になるから。いい思い出よ」


 当初、サンドイッチは朝食として考えられていたが、アールストーンに到着してからの、最初の調理物として考えると、一番簡単なものがいいだろうとの見解から、朝食から初日の昼食へと変更した。


 極端な話、ナイフを使えなくても、パンを切って(もしくはちぎって)、間に切った(もしくはちぎった)具材を挟めばいいのだ。


 ちなみに具材の一つである干し肉は、細切りにして一度火を通した状態で配られている。


 昼食は野菜サンドとしていた。アールストーン鍛練場の食堂からの好意で、コーンポタージュが提供されている。




※ 2019.7.20

2019.7.19

第二章「セクルト貴院校」の「学年寮長【了】」の前に、「学年寮長【お友達申請】」を追加しました。

すみません。

追加というより、抜けてました……。

PCで下書きした際の通し番号と、ネットでの通し番号をリンクさせてなかったので、今まで気付かず……。

読み返して「……あれ?」と気付いた次第です……。

すみません……。

割り込みはしないようにしてたんですが、今回のはどうしても掲載したかったのです。

ブックマークして下さってる方に、影響がなければいいんですけど……。(汗)

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