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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第三章 アールストーン校外学習
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16.班編成【カイルの恋煩い】

※すみません…。レイアウト編集せずに投稿してました…。

7/17、8:05ころ、レイアウト編集を修正してます。


      ◇◇         ◇◇


「……ねぇ……カイル……どうしたの……?」


 声を潜ませ、隣に座るサリアに耳打ちする。


 授業を終えた放課後。


 アールストーン校外学習に向けて、サリアがフィーナとカイルとジェフのクラスへ足を運んで、作業を進めている時のことだった。


 アールストーンでの騎士の警護に関して、オリビアとの打ち合わせをした後のここ数日。


 カイルはフィーナから見ても明らかなほど、その言動がおかしかった。


 おかしい――というか、何と言うか。


 ぼんやりしていることが多くなった。


 それだけでなく、時折、沈んだ表情を見せることもあった。


 鈍いと言われるフィーナも、さすがにこれまでと異なるカイルの状況に気付いて「どうかしたの?」と声をかけたほどだ。


 声をかけたフィーナを、カイルはしばらくぼんやりと眺めた。


 ぼんやりと眺め続けた。


 続く沈黙に耐えかねたフィーナが再度「……カイル?」と声をかけて「……何でもない」とふいっと顔を背けて返事をする。


 ジェフもカイルの状況に気付いているが、なぜかは不明だと言っていた。


 サリアが知っているとも思えなかったが、一応、フィーナは尋ねてみた。


 サリアもカイルの変容に気付いていたが、理由は知らなかった。


「言わないのだから、しょうがないわ」


 悩みがあっても、カイルの立場上、相談する相手を選ぶ必要がある。


 下手に踏み込むべきではないとの判じたサリアの言葉だったが、フィーナは「でも……」とカイルを案じていた。


 これまで不遜な雰囲気を纏い、猛々しさを見せていたカイルの、あまりにも急な変わりように「体調不良なのではないか」と心配した。


 フィーナの中には「悩み事がある」「落ち込んでいる」との発想がなかったのだ。


 そうして心配していたのだが、それにも限度がある。


「いい加減にしてっ!」


 終始、ぼんやりしていて、話も問い掛けも返事も上の空。


 アールストーン校外学習時の催し事の調整、食事の調理指導、班編成など、決めなければならないことは多岐に渡るというのに、カイルは「心、ここにあらず」の状態だった。


 生徒が主体となる事前準備だったが、教師陣とも打ち合わせも必要なので、運営陣が集まる際には校外学習付添教師の内、一人が同席していた。


 本日同席している教師は、ダードリアではない。


 ダードリアだったら、終始ぼんやりとしているカイルに、遠回しながら苦言を呈することができたのだろうが、第二王子であるカイルと接点がなかった教師には「恐れ多くて」と、注意するなどできない状態だった。 


 そんな状況を打破したのがフィーナだった。


 怒髪天の勢いで、カイルにたたみかける。


「もっとシャキッとしてくれない!? 話が進まなくてすっごく困ってるんだけど!」


 そう言ったものの、カイルの反応は漫然としたものだった。


「……困る?」


 何に困っているのだと、首を傾げる。


 フィーナの無礼な物言いに対する反論はない。


 傍から見ていたサリアは、カイルの様相に少々驚いていた。


 いつものカイルだったら、フィーナの物言いに、憮然とした表情を覗かせるのだが、それがいっさい見られない。


「ねぇ。

 班編成に関して『寮に滞在する側仕えの同行の許可を願う』嘆願書がきているのだけど。どうする?」


「却下。必要ない。

 同行を認めれば、校外学習の意味などないだろう?」


 サリアの質問に即答するカイルに、フィーナとジェフは驚きに目を丸くした。


 的確な返答がるとは思っていなかったのだ。


 質問した当人であるサリアは、ある程度、想定していたのだろう。


 小さく息をついて「判断力は健在なのね」とつぶやいた。


 そして「ややこしい」と、面倒そうに顔をしかめている。


 サリアとしては、カイルが見た通りの「ぼんやりしている」「考えていない」だったら、思い悩む時期、カイルは判断できないものとすることもできたのだが、先ほどのように的確な返答が得られる状況が、周囲にとって中途半端で仕方なかった。


 サリアの意図が汲みとれなかったフィーナは、とにかく、目の前のカイルの状態をどうにかしたかった。


 カイルと当たり障りのない世間話から、校外学習に関する話をしてみた上で、フィーナが下した決断はこうだった。


「カイルの状態は、その日その日確認するけど。――今日はダメ。話にならない」


 すっぱりと切り捨てたフィーナの判断に、運営陣の一人であるジェフは、その決断力に感心していた。


 相手は曲がりなりにも第二王子だ。


 粗相があっても、簡単に切り離せる相手ではない。


 それをフィーナは迷いなく決断したのだ。


 正直、ジェフもここ数日のカイルが、正常な判断ができているとは思えなかった。


 フィーナがカイルの第二王子としての立場、尊厳に対して、畏敬の念を持ち合わせていないと、ジェフは思っている。


 ジェフにとってフィーナは、当初は眉をひそめる対象であった。


 しかしカイルと接する機会が増えた今となっては、貴重な人材との認識に変じてきた。


 フィーナはいい意味でも悪い意味でも自分の考えに率直だ。相手を選ばず、誰であろうと自身の態度と芯にある意志は曲げない。


 それは相手との身分差を気にして、言いたいことを飲みこんできた側としては難しい事項であった。




カイルの恋煩いです。

お悩み中です。

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