15.カイルとオリビアの事前打ち合わせ【アルフィードの想い】
アルフィードの表情から、シンも彼女の言わんとしたことを悟って、嘆息した。
「用がある、約束の時間は過ぎている――。
そうであったとしても、大変な時に力になれなかったのは確かだからな。
非難も甘んじて受けるよ。
罪悪感がないわけではないんだ。
――この際だから言っとくが、俺には手のかかる家族がいる。
騎士団在籍を渋ってたのも、この前のスーリング祭の警護にあたったのが時間限定だったのも、今度の校外学習に同行できないのも、家族を優先したいためなんだ。
今度の校外学習の時には、家族の所用で、家族の側に居たい。
それが認められないなら、遠慮なく切ってくれ」
騎士団から除名してくれというシンに、なぜかアルフィードが驚いた顔をした。
話の流れからして、そうなるだろうと思っていたカイルには、アルフィードの驚きは意外だった。
シンの言葉に、オリビアはため息をつく。
「認めるから残ってほしい。
――統率をとる側として、それが私の答えよ。
団員の中にはシンを頼りにする者も多いのよ、実際のところね。
あなたのちょっとした武芸に関する助言で、騎士団対抗戦で飛躍的に成績を伸ばした団員もいるし、凝り固まった認識を、少し別の視点から見ることができたことで、伸びる団員もいた。
警護に関しても――可能な限り、参加してほしいのが正直な気持ちよ」
「俺も――関わりが深くなったやつらを、知らんふりはできないからな。
参加できなくても気になるんだ。
無理してないかとか、怪我してないかとか――無事だろうか。とかな」
「残留意思があると、ありがたく受け止めておくわ」
「――オリビア」
シンと話していたオリビアに、そっとアルフィードが声をかける。
「――でもできれば参加してほしいって……」
声はシンにも届いたのだろう。そしてそうしたオリビアの意志を、初めて耳にしたようで、驚いた表情をのぞかせた。
シンの表情に気付いたオリビアが苦笑する。
「できればね。今回の校外学習にはアルも同行するから」
オリビアはこれまでも校外学習に生徒として、そして護衛する騎士団の統率者として参加なり同行なりしてきたが、アルフィードは側仕えとなってからは宮廷に残っていた。
今回は人数の関係上、参加することになったという。
「そうなのか?」
アルフィードが同行するとは初耳だったらしく、シンは驚きを深めていた。
その後「時間だから」とシンはその場を後にした。
シンを初めて見たカイルは、アルフィードと不仲な様子を見て、場違いだと思いつつ安堵していた。
アルフィードを慕うカイルとしては、騎士が入団したと耳にするたびに、アルフィードと新人騎士の関係性が気になって仕方なかったのだ。
不安を拭ったところで、カイルはそっとアルフィードを伺い見た。
アルフィードは眉をひそめてうつむいていた。
そうした後、シンが歩いて行った後方を一度振り返ったアルフィードは、切なげな表情を浮かべていた。
それも一瞬のことで、すぐに背を向けると、オリビアに迷惑をかけたことを詫びていた。
カイルは、ほんの一瞬の――アルフィードの心の揺らぎを目にしてしまい、息が詰まる胸の締めつけを覚えた。
なぜか――アルフィードの気持ちを察してしまい、気が動転して、あいさつもそこそこに、足早にその場から離れる。
カイルの慌てた様子に、オリビアもアルフィードも怪訝な顔をしていたが、追及されることはなかった。
早鐘を打つ鼓動を感じつつ、足早になるのを感じつつ、カイルはほぞを噛んでいた。
(なぜ――)
なぜ、不仲だと安堵したのだろう。
誰に対してもそつなく接するアルフィードが、感情を露わに接する相手がどれほどいるだろうか。
嫌っているから、感情のままに行動したのではない。
アルフィードの性格を考えるなら、苦手とする相手、嫌っている相手には距離を取るだろう。
感情をあらわに接するということは、気を許しているということだ。
――自分には、向けられたことのない姿だ。
胸に渦巻く、自分でも説明のできない、制御できない感情を抱えて、カイルはその場を離れたのだった。
カイルが気付いたアルフィードの想いです。