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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第三章 アールストーン校外学習
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14.カイルとオリビアの事前打ち合わせ【アルフィードとシン】


 カイルが鍛練場から出ようと背を向けている時に、アルフィードの声が耳に届いた。


 声が聞こえなければ、そのまま帰っていただろう。


 アルフィードの声に、カイルは足を止めて振り返り、見送りに側にいたオリビアも、つられて鍛練場内へと視線を向ける。


 鍛練場は長方形の広場に、四方を通路が囲んでいる。


 カイルとオリビアがいる出入り口とは対面側の通路に、アルフィードの姿が見えた。


 鍛練場では数名の騎士が、鍛練を行っている。


 剣戟けんげきの中、アルフィードの声がところどころ耳に届いていた。


 激しい金音に阻まれて、話の内容までは聞こえない。


 だが、遠目に見えるアルフィードは、カイルがこれまで見たことのない様相を呈していた。


 対面している男性に、肩をいからせている。


 怒り露わの態度と表情で、対面する男性に何か話しているようだった。


 アルフィードが向かい合っている男性は、カイルが初めて見る人物だった。


 聞いていた年の頃、この場にいることから、話に聞いていた新しく騎士団に入った者だろうと想定できる。


 栗色の、耳元に届く髪の長さ。アルフィードより年上の青年だった。


 怒りをあらわにするアルフィードに対し、彼は戸惑いを滲ませている。


 二人を目にしたオリビアは、ため息を落とした。


「またケンカして……」


 オリビアの物言いに驚いた。その言い分では、こうした言い争いはよくあることのように聞こえた。


(アルフィード様がケンカ?)


 静かで落ち着いた物腰、穏やかで柔らかな対応。そうした印象が強いアルフィードが、感情露わに言い争いをするのが、カイルには信じられなかった。


 ため息をついたオリビアは、きびすを返して二人の元へ足を進める。


 同行しなくてもよかったのだが、個人的に話が気になるカイルは、オリビアの後に付いて行った。


 後に続くカイルに気付いているオリビアも何も言わないので、かまわないのだろう。


 二人に近づくにつれ、話の内容が次第にはっきりとしてくる。


 アールストーン校外学習に警護として同行しない青年を、アルフィードが「なぜ」と問い詰めていた。


 理由を言えないのはおかしい、それほど大事なことなのか。


 騎士としての自覚はあるのか、等々の話をしている。


 対する青年は、用があるから仕方ない、大事なのだから仕方ない。


 元々、騎士になるつもりはなかった、リーサスの強引な勧誘に根負けしただけだ。


 元々、個人的事項を優先すると話はついている――。


「無責任だと思わないのですか!?」


 かっとなって叫んぶアルフィード。


 その頃には、オリビアもカイルも、二人が話している内容が確実に聞こえるほど近くまで来ていた。


 語気の激しいアルフィードに、カイルも驚いていた。


 これほど怒りの感情をあらわにするアルフィードを目にしたことがなかったのだ。


「――言いすぎ」


 剣呑な雰囲気に、ため息交じりにオリビアが割って入った。


 言いながら、アルフィードの後方から軽い手刀を頭頂部に入れる。


 痛くはないが、思わぬ背後からの仲裁に、アルフィードは驚いてびくりと身震いした。


「心配してくれるのはありがたいけど、その話は私とシンとのことだから」


 驚いた顔で振り返ったアルフィードに、オリビアが苦笑交じりに告げる。


 そうした後、シンに目を向けて「悪かったわね」と声をかける。


「いや――」


 バツが悪そうに困り顔で頭をかく青年を、その時カイルは初めて近くで見た。


 栗色の髪に空色の瞳。


 珍しい瞳の色が、カイルの目を引いた。


 瞳は一見すると明るい空色なのだが、よくよく見ると中心近くになるにつれ、濃く深い色に変じている。


 たゆたう水面の印象を受ける瞳に見入っていたカイルは、アルフィードの「でも」と上げた声でハッと我に返った。


 諌めるオリビアの言葉に、アルフィードは納得できない様子だった。


「スーリング祭でも途中放棄したのに――っ!」


 平定の御世において、騎士が警護に付かなければ何が仕事なのかとアルフィードは問う。


「それは――」


 オリビアが困り顔で言い淀んで一度シンに目を向けた後、嘆息した。


「――違うの。

 元々、シンは『用があるから途中までしか警護につけない』と言っていたの。

 それを不慣れな団員のフォローをするために、約束の時間を過ぎても残ってくれてた。

 ――アルには話してなかったわね、ごめんなさい。

 スーリング祭でシンが帰った時には、シンの仕事の時間は終わってたの」


 初めて聞く話だったのだろう。


 アルフィードは驚きに目を見張って「だって、そんな……」とオリビアとシンを交互に見やった。


「そんなこと、一言も……」


 アルフィードの態度を見るに、シンにはスーリング祭に関して、幾度となく苦言を呈していたのだろう。


 シンは反論することなく、アルフィードの苦言を受け止めていたようだった。




アルフィードとシンのやり取りです。

シンはスーリング祭にも、時間限定で会場の外を警護していました。

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