13.カイルとオリビアの事前打ち合わせ【オリビアとアルフィード】
魔力なら常日頃、微量ずつながら伴魂に提供しているはずだ。
オリビアの考えを察したように、アルフィードは首を横に振った。
「日常の糧ではなくて。伴魂の体調が良くないときに……」
言いながら、アルフィードもどう説明すればいいのか、わかりかねているようだった。
けれど、オリビアにはアルフィードの言わんとしていることがわかった。
わかったが、なぜとも思う。
「それで、よくなるの?」
「応急措置としては……何もしないで時間がかかるより、数段――ましなのよね?」
最後は伴魂に尋ねて確認をとっている。
理屈はわかるが、なぜとオリビアは不思議でならなかった。
「どうして、そんなこと知ってるの」
聞かれて、アルフィードは一瞬、答えに詰まりつつ、もごもごと話した。
「私の伴魂も、怪我をしたことあって……。
あの時は有無を言わさず、こっちに伺いもなく、強制的に魔力を取られたんだけど……。
――わかってる。
ひどい傷だったんだろうけど、一言言ってくれてもよかったんじゃない?
……とにかく、伴魂の怪我には効果あるんだけど……提供する側は気持ち悪くて、数日寝込むだろうから、魔力提供を進めるわけではないんだけど……伴魂が怪我の治りは格段によくなるし、危篤状態は免れるだろうから。
……ただ、与えすぎ、取られ過ぎには気をつけて。
取られ過ぎると、今度は主の命が危なくなるから……」
考えずとも、オリビアの答えは決まっていた。
「フィービーが助かるのなら、教えて」
オリビアの言葉を聞いて、アルフィードも覚悟を決めると自分が行っていた方法を伝えた。
感覚としては魔法を使う際の魔力の流れを、伴魂に送る感じだという。
伴魂が受け取ってくれれば魔力の供給となるし、伴魂がそれに便乗して、魔力を求めてくる場合もあるので気をつけるようにとも言われた。
魔力提供の適量は、経験で得ていくものなので、初めは調整が難しいという。
オリビアの伴魂は体格が小柄なので、魔力を取られすぎはないだろうが、何があるかわからないものだ。
アルフィードに言われたように試してみると、途中から内臓の奥を探られる感覚に、気持ち悪さを覚えた。
伴魂に魔力を吸われていると、感覚的に思えてすぐ、ふっと意識が遠のいた。
視界が暗くなる中、「しっかりして!」と呼びかけ、周囲に助けを求めるアルフィードの姿が見えていた。
その後、アルフィードの助けに応じて王宮の者が駆けつけて、オリビアを介抱した。
同時にオリビアの伴魂も伴魂専門の伴医の元に運ばれ、事なきを得た。
オリビアとアルフィードが親しくなったのには、そうした経緯がある。
かいつまんだ話しながら、オリビアとアルフィードの話を聞いて、カイルは驚きを隠せなかった。
オリビアとアルフィードの初めて対面した状況にも驚いたが、兄である第一王子の行動が信じられなかった。
獅子の伴魂を、体格的に不利な小動物の伴魂にけしかけるなど……。
「兄上はいったい、何を考えて……」
「悪気はないのでしょうね。弱いから悪いと思っているくらいでしょう」
「そんな……」
「そういう方なのよ。……残念ながらね」
確かに、第一王子には「力が全て」と思っている節がある。
力だけが全てではないとの考えが、オリビア、カイル姉弟の見解なのだが、兄にはそうした考えがないようだった。
「――あなたも、気をつけなさい」
静やかな声で告げるオリビアに、カイルは驚きを隠せない。
「姉上?」
「表立ったことはしないだろうけれど……そうね。
伴魂が傷つく不測の事態もありえるから、アルから伴魂への魔力提供の方法を、聞いておくのもいいかもね」
「ま……待ってください。それではまるで兄上が――」
兄上が、危害を加えようとしているように聞こえます――。
言葉は、最後まで声にならなかった。
カイルの声に出来なかった思いは、オリビアも想定できた。
「誰も兄上がとは言っていないわ。
いつ、どこで、何があるか、わからないから。
知っていて無駄な知識でもないし。
……アルが手をとって教えてくれるのよ?
心惹かれない?」
からかうようにほくそ笑むオリビアに「話を逸らさないでください」とため息混じりに答えて「考えておきます」と返事をしておいた。
アールストーン校外学習時の、警護の打ちあわせのはずだったが、最後の方で思わぬきな臭い話になったことに、カイルは怪訝に思いつつ、結局、姿を現さなかったアルフィードを残念に思いつつ。
そうして騎士団の鍛練場を出ようとした時に、アルフィードの声を耳にした。
王族兄弟の関係性がほの見えたかなぁ。と思ってます。
そして、オリビアとアルフィードの出会い。
これも校外学習の打ちあわせで明かす予定ではなかったんですが、話の流れでこうなりました。
オリビアと第一王子の伴魂も、書ける機会あってよかったです。
シマエナガ。
画像を挿絵として添付しようかと思ったけれど「挿絵とは違うかな」と思ってやめました。
実物。見てみたいです。