11.カイルとオリビアの事前打ちあわせ【アルフィードへの想い】
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「アールストーン校外学習」を第三章としました。それに伴い、サブタイトルの章タイトル数、タイトル名、ちょこちょこ修正しています。
「……そう」
カイルの答えに、アルフィードはふわりと微笑んだ。
頬を紅潮させ、やわらげに微笑むアルフィードに、カイルの胸の鼓動が跳ねあがった。
「あなたのこと、大事にされているのね」
アルフィードの言葉に、カイルは目を瞬かせた。
美しい伴魂を褒めそやす言葉は幾度となく耳にしたが、両親が自分を思ってのものだとの言葉は聞いたことがなかった。
親が子を想うのはごく一般的なことなのだが、伴魂から両親の思いを感じることを、カイルは聞いたことがなかった。
年を聞かれて、来年、小児校に入るのだと答えると、アルフィードは少し驚いていた。
「フィーナと同じ年巡りね」
「『フィーナ』……?」
「妹よ。……フィーナも、あなたみたいにいい伴魂が見つかればいいけれど」
「……これがいい伴魂か?」
「見知らぬ私が側にいて怯えているけれど、あなたを心配して、頑張って側から離れないでしょ」
「……伴魂なら、それが普通だろう」
「……いいえ」
アルフィードはゆるりと頭を横に振った。
「伴魂とて生物に変わりないから、危険を感じると逃げてしまうの。
たとえ主に危険が及んでいたとしてもね。
危険だとわかりながら主を助けようとする伴魂は、そうそういないわ。
あなたの伴魂は怖がってるけど、主を心配して、懸命にこの場に留まっているの。
……本当、いい子ね」
アルフィードがカイルの伴魂に手を伸ばしたのは、無意識の行動だった。
美しい伴魂、そして主を思いやる伴魂。
カイルの伴魂が止まっている枝位置では、アルフィードの手は届かない。
カイルとアルフィードを見ていた伴魂の行動も、自然なものだった。
ふわりと羽を広げると、すいっと羽ばたいてアルフィードの肩へと降り立つ。
驚くアルフィードの頬へ頭をすり寄せ、くるる、と喉を鳴らした。
「え、ええっ、えええっ!?」
基本、伴魂は主以外に懐かない。
その伴魂の行動に、アルフィードは慌てふためいた。
手を伸ばしたのは無意識の行動で、伴魂に触れるとは思っていない。
それが伴魂からの思わぬ歩み寄りだ。驚かずにはいられなかった。
カイルも自身の伴魂の行動に驚いていた。
臆病な伴魂が気を許すだけでなく、自身の体を預けるのは、相当の信頼を寄せての行為だ。
驚いていたカイルだったが、それも伴魂から伝わってきた思いで何となくだか理解した。
「誉めてくれたのが嬉しいらしい」
「美しい」と賛辞を送られる伴魂だったが、口にする人々の真の思いを、カイルと同じく伴魂なりに感じ取っていたようだ。
アルフィードの純粋な賛辞を嬉しく思い、心を開いたようだった。
アルフィードは戸惑いつつ、カイルに触ってもいいのかと伺いをたて、了承を得てからそっと伴魂に触れた。
伴魂はくるる、と喉を鳴らしながら気持ちよさそうに目を閉じていた。
その後、アルフィードを捜す声で彼女はその場を離れた。
後にオリビアを通じて紹介されて、アルフィードとカイルはお互いを知る事になる。
アルフィードはカイルが第二王子と知って青ざめたが、カイルはオリビアの手前、初対面で通した。
カイルの意図に気付いたアルフィードも、カイルに合わせて初対面で通した。
後にアルフィードはカイルに無礼を謝罪した。
それからカイルは、アルフィードの逸話を耳にすることとなる。
そうした話やオリビアを通じて接するうちに、アルフィードへの思いが募っていったのは確かだが、やはりカイルにとって、アルフィードへの思慕を抱いたのは、自分の伴魂を認めてくれた時だ。
あれ以来、伴魂に対する気持ちも接し方も変わっていった。
相変わらずの気弱ぶりには頭を抱えることも多いが、気が弱いくせにカイルを心配する時は懸命に前に出ようとする。
――雄々しいだけがいいわけではない。
誰が言っていたか忘れたが、そうした気持ちも少しだがわかるようになっていた。
オリビアにアルフィードと自身の伴魂の話を、かいつまんで話すと、オリビアはゆっくりと頬を緩めた。
「そうだったの」
言いながら、くすくすと笑っている。
気弱な態度が消えたのはいいが、何だかからかわれているように思えて、カイルは憮然とした。
「何がおかしいのです」
「いや~。兄弟だなぁ。って思ってね。
――私もよ。
アルが伴魂を助けてくれたから、今の私があるの」
オリビアの伴魂は小さく、危険が及んだ際、自身で身を守るのが困難なため、普段はオリビアの自室に隔離している。
伴魂と常に行動をとることが通常であるこの世界において、必要以外、部屋の外へは出さないようにしていた。
「……昔、伴魂の居所がわからなくなって、騒動になったことがあったでしょう?」
「……そういえば……」
言われれば、そうしたことがあったような気がするが、はっきりとは覚えていない。
前回に続いて、カイルとアルフィードの出会いです。
ぼんやりとは考えていたんですが、思わぬところでその場を出すこととなりました。