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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第三章 アールストーン校外学習
78/754

10.カイルとオリビアの事前打ちあわせ【カイルとアルフィード】

※7/13

「アールストーン校外学習」を第三章としました。それに伴い、サブタイトルの章タイトル数、タイトル名、ちょこちょこ修正しています。



 人前で泣くのは幼いなりにも矜持きょうじに反するので、人目につかない場所で、こっそり涙を流していたのだ。


「ひゃっ!?」


 伴魂に叫んだ声に反応して、近くで声が上がった。


 まさか近くに人がいるとは思っていなかったカイルは、反射的に声の方に顔を向ける。


 そこには伴魂を見上げてカイルを見て。


 驚いた表情で視線を伴魂とカイルに視線を行き来させる、アルフィードが立っていた。


 まさか側に人がいると思っていなかったカイルは、アルフィードを見て驚いた。


 慌てて涙を拭っている間、アルフィードも慌てながらカイルの伴魂とカイルを交互に見ていた。


「ご、ごめんなさい。人がいるとは思わなくて」


 泣いているところを見られただろうか。


 懸念していたカイルだったが、どうやらアルフィードは気付いていない。


 思わぬところに人がいた驚きで、気が動転して気付いていないようだった。


 カイルは泣いているのに気付かれないように、すぐに顔をそむけた。そうしながらこっそり目元を拭い続ける。


 アルフィードが側にいた驚きで涙は止まっていたが、今顔を合わせると涙の名残で泣いていたことに気付かれるだろう。


 アルフィードも思いもしない場所に人がいたことで、どうしていいのか戸惑っていた。


 互いに何と言ったらいいかと言葉を探して、気まずい沈黙が流れる。


 沈黙の後、アルフィードはおそるおそるカイルに声をかけた。


「どこか、悪いの?」


 庭木にうずくまっているのは、怪我をしたなり、体調を崩して動けないのではと思ったようだった。


 カイルは顔をそむけたまま、ふるりと頭を横に振った。


「そう」


 そのカイルに、アルフィードが安堵の息をついたのが聞こえた。


(……気付いて、いないのか?)


 カイルが第二王子だと、アルフィードは気付いていないようだった。


 一度は真正面から顔を合わせている。顔をしっかり見たはずなのに、アルフィードはかしこまった態度を取らない。


 この時、カイルはアルフィードを知らなかった。この時がアルフィードと初めて顔を合わせた時だった。


 アルフィードもオリビアに招かれて王宮に来ていたが、あくまでもオリビアの友人としてだ。


 他の王族と顔を合わせる機会もなく、カイルの顔を知らなかった。


 王宮で過ごすカイルにとって、周囲は自分のことを知っている人間ばかりだった。


 初めて顔を合わせる人間でも、相手が先んじて最上級の挨拶を送ってくる。


 カイルにとって、自分を知らない人間と対面するのは初めての経験だった。


 普段のカイルだったら「なぜ自分を知らないのか」と憤慨するところだが、今は泣いてたこともあってバツが悪く、わかられていない方が都合がいい。


「……なぜここに?」


 気分が落ち着いて背を向けたままカイルが尋ねると、アルフィードは少し考えてぽつりとつぶやいた。


「綺麗な鳥が見えたから」


 綺麗な鳥。


 カイルにとっては素直に受け取れない言葉だった。


 周囲に「美しい伴魂」と言われていても、そこには「綺麗なだけで強くはない伴魂」との皮肉混じりの揶揄が含まれている。


 アルフィードもその思いで口にしたのだろうと、まなじりを釣り上げて彼女に目を向けたのだが――。


 アルフィードを見たカイルは、驚きに目を丸くした。


 カイルの伴魂は、主を心配して側の木に止まっている。


 その伴魂を、アルフィードは目を輝かせて見上げていた。


 それはカイルが初めて見る表情だった。


「美しい」と賛辞を受けても、その言葉に「美しいだけ」との小さな嘲りが含まれているのは、カイルにもわかっていた。


 アルフィードの表情を見て、彼女が心からそう思っているのだと思えた。


 カイルの伴魂に対する素直な賛辞を目の当たりにした、初めての経験だった。


 カイルの伴魂に見とれていたアルフィードも、ふと、鳥とカイルを数度見て「……もしかして」とつぶやく。


「あなたの伴魂?」


「……だったら、何だ」


 憮然と答えるカイルに、アルフィードは歓喜の声をあげた。


「こんな綺麗な伴魂見たの、初めて!」


 頬を赤らめて満面の笑みを浮かべ、はしゃぐアルフィードに、カイルは気圧される。


「綺麗! すごい!」を連発するアルフィードに、カイルは戸惑う。


 雄々しい伴魂でないのに、なぜこれほど感激するのか、カイルには理解できなかった。


「綺麗な伴魂、珍しいのよ?」


 カイルの戸惑いに気付いたのだろう。


 アルフィードはカイルにそう告げる。


「この伴魂はどなたから?」


 伴魂は基本、親が準備するものだが、珍しいものになると商人や親類を頼ることもある。


 聞かれて、カイルは思い出した。


「……両親から」


 母の故郷で捕獲したのだと聞いている。


 母が主導となった伴魂捕獲だが、父も何かと協力してくれて、カイルの伴魂として見合わせる前に事前に見定めたとも聞いていた。





アルフィードとカイルの出会いです。


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