9.カイルとオリビアの事前打ちあわせ【カイルの過去】
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「アールストーン校外学習」を第三章としました。それに伴い、サブタイトルの章タイトル数、タイトル名、ちょこちょこ修正しています。
そうした状況を理解して、カイルは小さく息をついた。
「わかっているのでしたら、行うだけでしょう」
「……え?」
ソファの上で膝を抱えて、項垂れていた頭をゆるりと上げながら、オリビアは弟に目を向けた。
カイルはオリビアの意気のない瞳を見ながら、口を開いた。
「試されているのは姉上でしょう?
アルフィード様との繋がりを切ることなく、これまでと違った手法を試みてはいかがですか」
「……どんなふうに?」
「それはこれから模索していきましょう。
まずは、アルフィード様を通した提言を聞かないことから始めてみては?」
言ったものの、カイルは眉を寄せた。
「――それはそれで、言われたことをそのまま行動に移すだけのようで、何だか腹が立ちますね」
うまく踊らされてる気もして、カイルは顎に手を当てて考えこんだ。
そうした弟の様子を見たオリビアは、小さな笑いを漏らした。
耳に届いた姉の小さな笑い声に、カイルは怪訝な面持でオリビアに目を向ける。
「姉上?」
どうかしましたか。
尋ねるカイルに、オリビアは緩やかな笑みを浮かべてゆっくりと頭を横に振った。
「うんん。
……ありがとう。話を聞いてくれて。
後のことは私が考えるから。
……私自身の、ことだから」
そう告げたオリビアに、弱々しい様相はもう見えなかった。
いつもの凛としたオリビアだと感じて、カイルも安堵の息をついた。
アールストーン校外学習の警護の件も話し終えているので、そろそろ帰ろうかとカイルが腰を上げようとしたところへ、オリビアが声をかけてくる。
「ところで……アルのどこが好きなの?」
……回避したはずの話題は、回避しきれていなかった。
「さきほども申したように……」
「さっきも言ったけど、ここだけの話にするから。約束は守るから。
……私は、私から見たアルフィードしか知らない。
他の人が――カイルから見たアルフィードがどう見えるか、教えてほしい」
真摯な眼差しは、からかう想いはないように見えた。
カイルは戸惑い、迷った。
第二王子としての自分の立場を考えると、軽はずみな発言はできない。
オリビアの「秘密にする。他には言わない」との言葉を信じているが、告げた内容は記憶に残るだろう。
何かしらの折に、思わず口をついてでる状況を、カイルは懸念していた。
懸念しつつ、オリビアの苦悩も理解できるので、慎重に言葉を選んでいた。
当たり障りなく、けれど真意が含まれるように――。
カイルはオリビアを姉として慕っている。
オリビアが初めてカイルに見せた弱音に、どうにか応えたい思いもあった。
考えた末に出た結論は――事実を話すことだった。
「私の伴魂を――『美しい』と言ってくれたのです」
出会いは偶然だった。
オリビアとアルフィードがセクルト在学時に親しくなって、王宮の私室にも連れだって訪問することが増えたある日。
当時、小児校に通う前のカイルがべそをかいて、私室から逃げ出して庭木に隠れていたところを、アルフィードに見つかった。
正確に言うと、アルフィードはカイルの伴魂を見つけて、それに釣られた。
庭木の陰にうずくまってべそをかくカイルの側木の上で、伴魂がおろおろしている。
伴魂は魂の伴侶。
話せずとも、感情は伝わってきた。
泣いているカイルに「どうしよう、どうしよう」とあたふたしつつ「大丈夫? 大丈夫?」と心配している。
伝わってくる感情は、カイルの神経を逆なでした。
「お前が弱いからっ! バカにされるんだっ!」
第一王子である兄の伴魂は獅子だった。
対してカイルの伴魂は、姿は美しいものの、強さを誇示できない鳥だ。
第一王子と何かと比較されて、そのたびにカイルは忸怩たる思いを抱えていた。
加えてカイルの伴魂は、とにかく気弱だった。
人前に出ることを怯え、主の側であろうと人の側には近寄ろうとしなかった。
そうした伴魂を、周囲の人間は苦笑していた。
「仕方ない」と見つつ、第一王子の伴魂を褒めそやす。
――子供だからわからないだろう。
その思いからカイルが近くにいても口にしていた事項は、全てが分からないなりにも真意はカイルに届いていた。
先ほども、第一王子の伴魂を褒めそやし、カイルの伴魂を苦笑する。
苦り湯を噛みしめて我慢することも、素知らぬふりで受け流すこともまだできない子供であった。
第一王子の伴魂が何か、初めての登場です。
今回のカテゴリには王族兄弟の関係性も盛り込んでます。
……意図せず、盛り込む形となりました。
そしてまさかのカイルとアルフィードに関しても。
んんん?
最初の構想では、ここでこの話の予定ではなかったんだけれど??
あれれ?
そんなことが多くて、長くなった回です。
まだまだ盛り込まれてること、多いですよ~。
これからですよ~。




