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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第三章 アールストーン校外学習
76/754

8.カイルとオリビアの事前打ちあわせ【シンの指摘】

※7/13

「アールストーン校外学習」を第三章としました。それに伴い、サブタイトルの章タイトル数、タイトル名、ちょこちょこ修正しています。



 指摘した人物は、想いを吐露するオリビアの手法さえも考慮済みで、たたみかけて苦言を呈した。


「王女なんだろ。それくらい出来る年齢だろ?」


 ――ぐうの音も出ない。


「ってか、今のうちだろ、そういうことできるの。

 自国の相手なら、王女様がどんな粗相したって、最悪、権力でどうにかできるし握りつぶせる。

 他国の権力者相手だと、対面で話すだろうし、人伝えのワンクッションなし、その場での対応を迫られる。

 ――いきなりなんて、できないだろ。

 今は場数を踏め。恥なんて一時いっときのもんだ。

 それで死ぬわけでもないし。

 何だったら、恥かいた時、命じればいいだろ。

『今あったことは忘れるように。覚えていたら命の保証はない』

 ……とか何とかな。

 あくまで脅しだ脅し。

 それにな。

 若い時、いくらバカやっても、後々偉業を成し遂げれば、若気の至りは放免になるもんなんだよ。

 犯罪はさすがにダメだが。

 仕出かした分の償いは必要になるが、後ろ指はさされない。不思議なもんでさ、高い確率で忘れられる。

 覚えてるやつがいても、好意的な笑い話になるってもんだ。

 ――強制はしない。

 変えようとするなら、今ならまだ間に合う」


 オリビアの話を聞いたカイルは、あっけにとられてしばらく声が出せなかった。


「――誰ですか、提言した者は」


 ようやく言えたのは、それだった。


「シンっていう、騎士団に最近入った者よ」


「騎士団に……そのような者が……」


 おそらく、以前聞いていた新参者だろう。


 スーリング祭時に見姿を確認しようとしたが、結局見ることはできなかった。


 彼の提言は的を射ている。


 おかしな点はない。


 確かに、そうなのだが――オリビアに話すことではない。


「よく……お許しになられましたね」


 シンという新参者が告げたことは、オリビアの怒りに触れる部分もあった。


 なのに、オリビアは自身の怒りについて話していない。


 ということは、彼の話を受け入れたということだ。


 カイルの言葉に、オリビアは苦笑した。


 苦く笑うだけでなく、目元にはつらそうな感情がのぞいていた。


「『何も知らないクセに――っ!』

 ……って……叫びそうにもなった。

 けど、そうする前に言われた。

 『アルフィードを巻き込んでいるのがわからないのか』……って……」


 ぽつぽつとつぶやくオリビアに、カイルは目を瞬かせた。


(アルフィード様を……姉上が巻きこんでいる?)


 胸の内で反芻させてみても、何を言っているのか、状況がつかめない。


 どういう意味なのかと、視線でオリビアに問うと、視線に気付いたオリビアがぽつぽつと話を続けた。


「人の提言を、アルを介して行うことによって、アルの意見が介入していると見られかねないって……。

 実際、そうだろうとも言われた。

 人だから、その伝言に関して、多少なり思うところもある。

 そうした思いが、いくら無表情無感情で貫こうとしても、話し方とか、微妙に違ってくるはずだって。

 今はまだ、私が金銭の利に関わる部分にも、政治的効力がある場にも所属しないから、問題になっていないけど。

 王女としてそうした部分に関わる時、今のままだとアルが標的にされるだろう。

 命を脅かす脅迫があってもおかしくない。

 それを防ぐには、私が物事を決断する部分には、アルを関わらせないことだ。――って……。

 そんな話聞いたら、一気に不安になった。

 アルは気を使って私に言わないけど、もしかしたら気付かないところで何かしら圧力がかかったりしたこと、あったのかなって。

 ……迷惑、かけてたんじゃないかって、思えた……」


 オリビアの話を聞いたカイルは、唖然としていた。


 オリビアとアルフィードの主従関係は、模範的に語られるほど、互いが互いを信頼していて、皆まで言わずとも理解し合える間柄だと(実際そうなのだが)知れ渡っていた。


 そうした二人の関係を褒めそやす人間は目にしたことがあったが、批判する人間がいるとは思っていなかった。


 批判も、的を射ている。


 今はオリビアの権限は国の根幹に及ばないので、注視されていないが、今の状況のまま、王族の一人として権限を与えられるようになると……告げられた懸念は現実味を増してくる。


 それはオリビアとアルフィード、二人を近しい場所から見ていたカイルも、思い至らなかった懸念材料だった。


 姉とアルフィードの関係は、身分の違いを超えたものとして、どこか神々しくも感じていたのだ。


 しかし……確かに、見方を変えれば懸念材料ではある。


 そうした、これまで気付かなかった一面をつきつけられて、オリビアは憔悴し、弱気になっていたのだ。




久々のシン登場です。

そしてオリビアの事情を少々。

初めはここまで話を深めるつもりはなかったのですが。

逆に書けるタイミングを得られて、結果的にはよかったって感じです。

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