127.精霊の寵児 46
フリージアの両手を――自分の両手で包んで、引き寄せる。
互いの息が触れあうほど近いゲオルクに、フリージアは目を見開いて――頬を赤らめた。
フリージアの困惑を察しながら、ゲオルクは続ける。
「ジアが全てを背負う必要はないんだ。
困ったら、相談すればいい。
誰かを頼ればいい」
ゲオルクの話に、フリージアは呆然とした。
しばらくそうしたあと、ぽつりと声をもらした。
「……たよ…る…?」
ゲオルクの言葉を反芻するフリージアは、どこか遠くを――今、ここではない場所を見ていた。
過去の出来事か、身近な者たちを思い起こしているのか――家族を思っているのか……。
フリージアの表情からよぎった推測は――ゲオルクの意識に流れ込んだ、過去の情景が肯定した。
両親、親族、教鞭をとる教師――。
フリージアが彼らに助けを求めても「フリージアなら大丈夫」等と返される。
意識に流れたフリージアの過去世は、アグロテウス視点のものだろう。
アグロテウスも――他の精霊神たちも、フリージアの心情と周囲の状況に懸念を抱いていたが――人の心を真に理解しきれない彼らは、踏み込んだ行動を起こせなかった。
強大な力を有するフリージア。
――神の庇護を受けるフリージア。
力があっても、万能ではない。
全てを完璧にこなせるわけではない。
敵とはいえ――攻撃を受けたとはいえ。
フリージアは見知らぬ者相手でも、傷を負う姿に心は痛むだろう――。
そのフリージアを助けたいと、ゲオルクは思う。
「まずは戦線にならない防衛策を考えよう。
他国民が領土に侵入しなければ、戦にもならない」
「けど……そんなこと……」
呆然としながらつぶやくフリージアの言葉から、試そうとしたものの、上手くいかなかったと聞こえた。
ゲオルクは、アグロテウスからの過去情報の意識流入で「人の手だけによるもの」の対策だったと知る。
苦い思いを抱きつつ「精霊神達にも協力を頼むべき」と告げた。
フリージアは「そんなこと、頼めない」と慌てて首を横に振ったが――。
「精霊神達は、寵児の願いなら喜んで受けるはずだ。
私利私欲でなく、国を護るためなのだから。
――逆に。
助けを乞われなかったことが理由で、寵児――ジアが被害を受けるほうが、精霊神達にはつらいはずだ。
彼らは――請われて答える存在だ。
自分たちから提案できないんだ。
――例えば。
村の子が、親の病状等、助けを求めようとしたものの、その子は「恐れ多い」と遠慮した。
結果、親は息を引き取った――。
ジアならすぐに助けられた症状だったのに」
「どうして……頼ってくれたら……」
自然に漏れ出た自分の言葉で、ゲオルクが言わんとすることをフリージアは理解した。




