7.カイルとオリビアの事前打ちあわせ【オリビアの苦慮】
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「アールストーン校外学習」を第三章としました。それに伴い、サブタイトルの章タイトル数、タイトル名、ちょこちょこ修正しています。
カイルはまがりなりにも第二王子である。
その自覚はある。
そうした立場の自分が、異性に関する心情を軽々しく口にはできない。
無難な答えを口にしたカイルに、オリビアは苦笑した。
「そうだね。そう、なんだけど……。
ごめん。私とカイル、二人だけの秘密ってことで、答えてくれないかな。
誰にも言わないし、カイルが言ったこと、この場で忘れるから」
「姉上……?」
来客室は、人ばらいをしているので、オリビアとカイルの二人きりだ。
来客室の外にはオリビアが統率を取る騎士団の者が控えている。
王宮の敷地内、相手がオリビアの弟で信頼を置いているところから、二人だけの在室でも許されていた。
正確に言うと、オリビアとカイルは母違いの兄弟になる。
父は同じなのだが、オリビアの母は第一王妃、カイルの母は第三王妃という立場だった。
第一王子の母は第二王妃の母なので、王の子三人は、皆、母違いの兄弟となる。
第一王妃と第三王妃は同じ貴族籍の名を持つ親類籍のあり、二人とも仲がよかった。
そうしたこともあって、オリビアとカイルは母同士が親しくする場に同行し続けた結果、「姉と弟」を互いに認識する状態になったのである。
母は違えど、カイルはオリビアを「姉」と思っている。
その姉が見せる、これまでに目にしたことのない言動に戸惑っていた。
常に凛と背を正し、前を見据え、困難にも笑って「受けてたつ!」と血気盛んさを見せていたオリビアとは思えない、膝を抱えて縮こまる姿に、どう対処すればいいのか、わからなかった。
「何か、あったのですか」
どうにか言えたのはその一言だ。
落ち込むオリビア。
なんと希少価値の高い――。
(――いやいやいや)
考えた自身の思考を、頭を振って追い払う。
オリビアとて人の子だ。
落ち込むこともあるだろう。……想像は難しいが。
オリビアは少々考えて「……アルが……」と口を開いた。
「私の側仕えとして居るの、無理してるのかな。
……って……。
……無理、させてるのかなって、思えてね……」
オリビアの言葉に、カイルは目を瞬かせた。
驚いた。
驚きつつ、オリビアがそうしたことを考えるのがわからない。
「アルフィード様が、そうおっしゃったのですか」
「アルが言うわけないじゃん」
「ではなぜそのように思ったのです?」
話しながら、カイルは状況をうっすらと理解した。
カイルにアルフィードの事を聞いているが、主体は自身とアルフィードに関してだろう。
つまり、カイルの気持ちを確認したいというより「オリビアのお悩み相談」なのだ。
自身の気持ちを口にする気恥かしさから逃れられたことに安堵しつつ、姉が少々心配になった。
オリビアは自他共に認める「アルフィード大好き人間」である。
そのオリビアが「アルフィードは迷惑してるかも」との懸念を持つと、二人の関係性の変化が懸念される。
アルフィードはある意味、暴走時のオリビアを諌める立ち位置が通常化しているので、二人が距離をとるとなると様々な支障が考えられた。
同時に、オリビアの拠り所が失われるのではないかとの不安もあった。
オリビアはアルフィードが側にいることで、心の安寧を保っているのだ。
カイルの問いに、オリビアはゆるゆると口を開いた。
とある人物から指摘を受けたのだと。
騎士団の面々にしろ、その他にしろ。オリビアに進言しにくい事柄をアルフィードを通して言わしめている。――と。
――図星だった。
アルフィードが頼まれてオリビアに告げる事柄は、オリビアの怒りの琴線に触れるものばかりだ。
オリビアにしても、アルフィードから話される方が気が楽だった。
アルフィードはオリビアの性格を熟知しているので、単なる感情に任せた言葉なのか、熟慮した結果なのか、説明せずとも理解してくれる。
人ばらいをした後、オリビアはアルフィードから伝え聞く「頼まれごと」に対して、周囲を気にすることなく怒りをあらわにし、口汚く想いを吐露する。
そうして胸の内の苛立ちを吐き出した後、高ぶった気を静めて熟考し、返答するのだ。
これが当人対面で行われたなら、怒りを吐き出す機会なく、胸の内に抑え込みつつ、答えを考慮しなければならない。
オリビアには怒りに触れる提言を対面で行われた時、上手く応対できる自信がなかった。
カイルの恋愛話から、オリビアの相談です。
今回のカテゴリは、初めは想定していなかった、いろいろなことが盛り込まれていきます。
今回は、オリビアの状況を少々。




