5.伴魂の心配
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「アールストーン校外学習」を第三章としました。それに伴い、サブタイトルの章タイトル数、タイトル名、ちょこちょこ修正しています。
◇◇ ◇◇
念のため、フィーナの側で控えていた彼女の伴魂、白いネコは、内心ひやひやしながら校外学習で作る料理対決の様子を見ていた。
(校外学習……)
懐かしい響きである。
小学生のころ、高校生の頃。
それぞれ県内外の自然溢れる施設へ赴き、生徒と教師、規律の元、数日間の共同生活を送った。
食事は用意されていたが、自分たちで寝床の準備や掃除をするなどの作業があったように思う。
レクリエーション、クラス対抗のスポーツ等、勉学とは異なる共同作業を割り振られた班員やクラスメイトでこなしながら、自己の成長と班員との連携・信頼関係を築いていた。
……多分、おそらく。
転生前でさえうろ覚えの事項なので、転生後の今ではさらに霞がかった意識の底に沈んでいる。
当時はどうだったか。
そうした思い出に思考を馳せながら、すぐにハッと我に返った。
(いやいやいや。ってか、ナニやらかしてくれてんだアイツは)
転生前は精神的胃痛など感じたことがなかったというのに、転生後は度々胃痛に悩まされている。
それも自身と最も繋がりが深く、最も自己と信頼関係が深くあるべき人物の言動によってだ。
フィーナは……よく言えば裏表がない。
悪く言えば周りが見えず、本音と建前を使い分けれず、思ったことをほぼそのまま口にする。
転生前は「口に気をつけろ」と言われた伴魂をおして「言動に気をつけろ」とフィーナに対して言わなければならない状況にするのだから、その現状たるや、おして知れるものだろう。
(『サンドイッチ』も広めるなって言っただろうが……っ!)
基本、生命維持には主の魔力があれば事足りる伴魂ではあるのだが。
生物には変わりないので、魔力供給が事足りていても、口蓋での咀嚼によって食物を味わいたい欲求に苛まれていた時期があった。
それも転生前の料理を、だ。
残念ながら、フィーナの村の料理は素朴な味付けが主体で、伴魂が口にせずとも、調理を見れば淡白な味わいであることは想定できた。
調理はフィーナの母、ロアが主に行っている。
ロアの調理を時折眺めながら、不思議に思っていた。
食材は、転生前に見知ったものを見かける。そうした食材があるのに、なぜあれやこれやの料理を作らないのだろう。……と。
伴魂も転生前、調理が好きだったわけでも、舌が肥えていたわけでもない。
共働きの両親が家に不在だった時に、簡単なものを、自分と妹の分を作っていた。
そうした経験と抗いきれない生理的欲求によって、伴魂は主であるフィーナに口頭で伝えながら、幾度もの失敗を経て、いくつかの料理を作ってもらえるようになったのである。
最初にフィーナに作ってもらったのは卵焼きだった。
出汁巻き卵でないのが残念だったが、バターと塩で味を調えた卵焼きを初めて口にした時には、歓喜の叫びを上げたほどだ。目の端には涙も出た。
フィーナも食すと気に入ってくれた。
フィーナは手順もわかっているので、伴魂不在の場でも度々作るようになり、それをフィーナの両親も口にして、ドルジェで爆発的に広まった。
伴魂がフィーナに作り方を口頭で伝えた料理は、他にもいくつも存在する。
伴魂がフィーナから両親、両親から村中に広まっていると気付いた時には、戦慄を覚えた。
それからフィーナには「自分が教えた料理は、他に教えないこと」「誰から教わったのか、公言しないこと」と言い聞かせていたのだが……。
「他に教えないこと」は破っている。
「誰から教わったのか」は、数年以上前のことなので、記憶が定かでなく、忘れているようだった。
ドルジェ内でも「定番料理」と浸透しているので「村の料理」で収まりそうだが、伴魂の気兼ねは半端なかった。
極力、目立ちたくないのだ。
今では自身で、懐かしい料理を食せる機会を設けられるようになったので、フィーナに頼んでいない。
そうしたことも、フィーナの「原案は伴魂から教えてもらった」意識が消えうせた要因だろう。
……とにもかくにもだ。
(一度約束したことくらい、きちんと覚えてろって)
思いながら、カイルとフィーナの調理対決を、キリキリ痛む胃を抑えながら見守っていたのだった。
伴魂であるネコの思いでした。
伴魂主体での語り口は初めてかも。