94.精霊の寵児 13
ゲオルクはファ・ディーンに定期的に来訪していると、縁者以外に隠していた。
――ファ・ディーンへの来訪は人には言わないように
両親に何度も言われたし、招待に応じないのは、リージアの家、エルド家の意向だろうと思った。
複雑な状況から、繋がりを持つ相手をルスター家一つに絞ったのだろうと、ゲオルクは思っていた。
その選別の日と婚姻話がどう結びつくのか。
困惑するゲオルクに、フリージアはおもむろにつぶやいた。
「あの日。
私はそなたに惚れた」
「――――は?」
思考が停止したゲオルクは、その後、初めて聞く――彼が知らなかった話を聞いたのだった。
「あの茶会の後、両親に聞かれたんだ。
同席した子達に関して。
私は即座に答えた。
『オズマが欲しいっ!』
――と」
(……ああ……)
フリージアの言葉に、ゲオルクは頭を垂れて額と目を押さえた。
思い起こせば、心当たりはいくつもある。
茶会の翌年、フリージアはオズマと遊びたがり、それは数年続いた。
さすがに「他人の伴魂とふれあうのはいかがなものか」とファ・ディーンの有識者に諭され、控えたものの――気落ちしたフリージアが気の毒に思えて、ゲオルクはこっそり、フリージアとオズマが触れ合える時間を作っていた。
オズマが発端となり、フリージアとゲオルクの婚姻話が進んだということか。
「――そなたは……どうしたい」
困惑を解消しきれない中、ゲオルクがつぶやく。
「……どう?」
首をかしげるフリージアに、ゲオルクは続けた。
「想い人がいるのでは?」
顔を伏せたままのゲオルクは、フリージアの表情が見えなかった。
――見るのが怖かった。
「それは――っ!」
話そうとしたフリージアが、何かに気付いて言葉を止める。
怪訝に思ったゲオルクが、フリージアを見上げた時には。
馬上のフリージアは、東方面に厳しい眼差しを向けていた。
◇◇ ◇◇
「そなたに……隠し事はしたくない」
フリージアは東方面に厳しい眼差しを向けたまま、つぶやく。
「婚姻話以外に、話していなかったことがある」
フリージアは告げると、ゲオルクに乗馬を促す。
朝の散策時、他の者とはぐれた理由を明かすと告げて。
駆けるフリージアにゲオルクは続いた。
――途中。
「オズマの解放を」
告げたフリージアの言葉にも応じた。
その時は「なぜ」と不可思議に思わなかった。
(共に早駆けしたいんだろうな)
と、呑気に思っただけだ。




