4.フィーナの料理
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「アールストーン校外学習」を第三章としました。それに伴い、サブタイトルの章タイトル数、タイトル名、ちょこちょこ修正しています。
まずをもってだ。
「いったい、何を作ったんだ?」
初めて見る料理に、カイルを始め、誰もが目を丸くしている。
ちなみに、カイルのレシピを作る調理人はまだ作り終えていない。予想外に早く調理を終えたフィーナに、調理人は焦りを見せている。
カイルは調理人に「普段通りでいい。普通にしてどれほど時間がかかるかを確かめる目的もあるのだから」と伝えて、フィーナの元へ足を向けた。
何を作ったのか、わからないが、味は想像はできる。
野菜を重ねたものは普段食するものばかりなので、それらを想像すれば味の予想は難くない。
卵を焼いた方も、想像はできる。
側に行くと、卵を鍋で焼いた際のバターの香りが鼻腔をくすぐって、我知らず生唾を飲んでしまった。
カイルの言葉に、フィーナは目を瞬いた。
「『サンドイッチ』だけど……知らない?」
知っているかと、カイルは調理人やその場に居合わせた者たちに視線を向ける。
誰もが首を横に振っていた。
それを見て、フィーナも「あれ~?」と首をかしげた。
「村特有の料理なのかな?」
普段から口にしていたので、皆知っていると思っていた。
セクルトではメニューに出たことがなかったが、それは少々かしこまった料理が並ぶためだと思っていたのだが。
「ホントは野菜とチーズと干し肉のサンドだけで考えてたんだけど、一つだけだと物足りないかなぁ。って思ってね。『卵焼き』サンドも作ってみたんだ。これも簡単だったし」
「『卵焼き』?」
「え? これも知らない?」
言って、パンにはさまれた黄色の厚みをフィーナは指さす。
「市井の料理か……?」
結局、それが皆が想定したものだった。
カイルのレシピを調理する者が作り終えるのを待って、互いの料理を審査員が口にした。
先にカイルが考えた料理を食すことになった。
これまで何度も食べたことがあるので、味に問題は何もない。
ただ……やはり工程の多さが、審査員も気になるところだった。
料理に不慣れな学生が、混乱なくこなせるとは思えなかったのだ。
カイルの審査が終わると、フィーナの番となった。
フィーナはそれからパンの上に乗せていた皿をとって、左右に切り分けられた大きさのパンを、今度は両断するように切り分けた。
そうして断面が見えるように皿に盛って、審査員とカイル、二人の調理人に差し出した。
ちなみに、ちゃっかり自分の分も作っている。
「これは……」
野菜を挟んだもの、卵焼きを挟んだもの。
共に断面の鮮やかさにため息が漏れている。
どのように食べるのかと尋ねると、フィーナはあっけらかんと答えた。
「両手でつかんで、かぶりついて」
テーブルマナーなどない、下品な食べ方に、誰もが躊躇した。
カイルも躊躇したが、テーブルマナーより何より、どのような味がするのか、そちらに対する興味が勝った。
カイルが先に、野菜を挟んだものに手を伸ばすと、それに倣うように、皆、野菜を挟んだものを口にした。
口に入れると、少々硬めのパンの弾力の後に、シャクリと青葉の歯切れのいい食感が口に広がった。
頬張って咀嚼する間にも、青葉のシャクシャクとした食感、合間にチーズとパンに塗ったバターの濃厚な味わい、そして炒めた干し肉の油分を含んだうまみが口の中に広がる。
脂っこい炒めた干し肉も、一緒に挟まれている青葉と少々酸味があるトマトの薄切りで脂っこさがいい具合に調和されている。
材料も手順も、何ら難しいことはしていない。
なのに、初めて味わう食感と味わいに、誰もが驚いていた。
ただ一人、フィーナだけが「久々~」と恍惚と料理を味わっていた。
野菜を挟んだサンドイッチを食べ終えると、もうひと種類の卵焼きサンドを、順次手に取っていく。
シャクシャクとした歯触りだった野菜サンドとは対照的に、ふわりと柔らかくかみ切れる。
パンも硬めのパンだったはずだが、しっとりもっちりした食感になっている。
卵焼きも柔らかくかみ切れ、中に入っていたチーズのとろりとした食感と塩分がアクセントとなり、味わいを深めていた。
そうしてカイル、フィーナ、それぞれが考えたレシピが日を違えて朝食、昼食、夕食と披露された後日。
審査を行った面々の総意の元、フィーナが考案した料理に決まったのだった。
一般的なサンドイッチです。たいそうなもののように書いてますが(汗)。
サンドイッチの起源的には、参考にした年代を考えると、ありそうですが、もっと簡単なものだったのかな。と。
フィーナの年齢的にも、大人の手を借りずに簡単に作れるもので考えました。
キャンプとかでは子供はカレーが一般的でしょうが。(この国ではない前提料理です)
ルーがないと無理だし、スパイス調合はもっと無理だと思って、サンドイッチにしました。
教えたのは、言わずもがな、転生者であるネコの伴魂です。(苦笑)