92.精霊の寵児 11
声に驚いた野犬は体を硬直させたものの、フリージアを見ると鼻白んだ。
子供相手に、自分が優位だと思ったのだろう。
牙をむく野犬に、フリージアはどこからか拾った木の棒を両手で握り、剣のように体の前に構えた。
慣れた動作から、鍛錬を受けているのだろうが――ゲオルクは困惑し、混乱していた。
叫んだフリージアは、女児二人から数メートル距離をとって、彼女等の安全にも配慮している。
堂に入った動きだが、子供が獰猛な野犬にかなうとは思えない。
(どうしよう――どうしよう――っ!)
打開策を探すゲオルクは、早鐘を打つ胸を押さえて息をつめて、野犬とフリージアを見つめていた。
フリージアと野犬が、互いに様子をうかがっていたところで――再び女児が泣き出し、その声にフリージアが気をとられた。
そのスキを、野犬は逃さなかった。
襲いかかる野犬に、フリージアの対応は間に合わない。
「っつ!」
フリージアは咄嗟に、木の棒を横にして顔前に構えた。
野犬はその棒に噛みついて顔を振り回す。
「っ、あっ!」
力負けしたフリージアが離した木の棒を、野犬は首を振って後方に投げ捨てた。
フリージアは反射的に後方に退こうとして――、慣れないドレスに足を取られ、転んでしまう。
そのフリージアに、野犬が牙をむいて躍りかかった。
「――オズマっ!」
ゲオルクの声に応えて、大狼の伴魂、オズマが瞬時に現われた。
茶会では伴魂を伴って参加を
それが条件だったものの、主催者家族以外が客室に同席した際、女児二人はオズマを怖がって泣き出し、男児二人も気丈にしているものの、恐れは見えた。
オズマを伴魂としてから、幾度となく目にした光景だ。
「オズマは人が多い場所が苦手なので――少し離れてしまいますが、庭の一角に控えさせて頂けないでしょうか」
両親を通して、オズマの待機場所を提案した。
子供達を考慮して、提案は受け入れられた。
そうした前述があったのだが、子供達だけで庭に移動した際、同席する子供達は伴魂オズマの主であるゲオルクを恐れることなく、むしろ「伴魂との距離をとらせてしまった」との罪悪感を、ゲオルクに抱いていた。
同席した児童は皆、側に伴魂がいる。
伴魂は魂の伴侶。
側にいる方が、主も伴魂も、心穏やかでいられる――。
談笑しながら――話を合わせながら、ゲオルクは「そういうものなんだ」と、自分以外の人と伴魂の関わりを知った。
(でも僕は――)




