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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第三章 アールストーン校外学習
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2.校外学習の運営陣

※7/13

「アールストーン校外学習」を第三章としました。それに伴い、サブタイトルの章タイトル数、タイトル名、ちょこちょこ修正しています。



 カイルとフィーナ、サリアのやり取りに、呆気にとられるジェフだったが、それでも「ベルを陣営に」との思いが強いのだろう。「しかし」と食い下がった。


「アールストーンでの陣営運営は、評価の対象でしょう。これまで性別次席が担っていた部分を前例なく他の者に任せるなど……」


「……ジェフ……」


 カイルは項垂れてため息を落とした。


 理由を述べたのになおも食い下がるジェフを意外に思う。


 カイルは気付いていなかったが、サリアはジェフの思いに勘付いていた。


 ジェフの言うように、アールストーン校外学習を滞りなく、無事に終えれば運営陣には多分の評価が与えられる。先達者は問題も生じなかったのでそつなくこなし、勉学成績とは異なる評価の稼ぎ時ではあったのだろうが……フィーナは良くも悪くも地雷のような危険性がある。


 校外学習は問題に対処できなければ、マイナス評価を受ける、諸刃の剣でもあるのだ。


「ベルに聞いてみろ。ベルが受けてくれるのなら、サリアと変更でもかまわない」


 カイルの耳にも、女性寮での騒動は耳に届いている。しかしジェフはそれらを知らない。


 後日、嬉々としてベルに尋ねたジェフは、穏やかに微笑むベルから「謹んで、ご遠慮いたします」との返事をもらったのだった。


 ベル曰く「フィーナを御せる自信がありません」とのこと。


 女性寮でいろいろあったのだと大まかに話して「サリアが副寮長として居てくれることで最小限の混乱ですんでいるのですよ」とジェフに諭した。そう説明しながら「手に負えないものを自分にふられても困る」との意思を匂わせていた。


 ジェフも鈍い方ではない。


 ベルの心境を確認して、改めてサリアを運営陣として受け入れたのだった。


 そのジェフも、すぐにフィーナの洗礼を目の当たりにすることとなる。


「え!? これが朝ごはん!?」


 カイルが考えた食事の献立に、フィーナが目を丸くする。


 カイルとしても過去を参考にしたので、フィーナが驚く理由がわからなかった。


「何かおかしいか? 寮での食事と変わりないだろう?」


「殿下のお考えに不服があるというのか?」


「不服とか、そうじゃなくてね。寮の食事は、専門に作ってくれる人がいるじゃない。それを生徒に求めるの? ってか、カイルも作れるの?」


「作れるように、これから練習するのだろう?」


 校外学習では食事も生徒の手によってなされる。


 普段、料理などしたことのない生徒たちが行うため、最初に決める事項であり、配られた材料とレシピを元に、調理する手筈となっていた。アールストーンで調理できるよう、練習する時間も考えて、レシピは早い段階で生徒に知らされるものであった。


 さすがに食材を現地調達するサバイバルな生活は無理なので、レシピにそった食材を準備し、その食材を生徒たちが調理する流れとなっていた。


 献立はまかせろ。とカイルが言ったので任せたが……フィーナとしては不安がつきない。


 料理に問題はないのだ。問題があるとすれば、提案されたレシピを生徒が作れるかどうかなのだ。


 寮の食事は貴族籍の子女を相手にしている点もあって、フィーナから見ると、常に手の込んだ料理になっていた。


 ドルジェで食事の手伝いもしていたので、かかる手間もある程度想定できる。


 それを生徒に求めるのは、酷であるように思えた。


「もっと簡単なものでもいいんじゃない?」


 フィーナの提言に、カイルはあからさまに眉をひそめた。


「手を抜けと言うのか?」


「いや、手を抜くとかじゃなくてね? ……校外学習って、戦時中を想定した訓練が元となってるんでしょ? 手軽で時間かけずにお腹充たせる、そっちの方が重要じゃないの? その上、おいしければ文句ないだろうけど」


 カイルとフィーナの話は平行線をたどり、結果「だったら互いに考えた料理を実際につくって食べて確かめて判断しよう」との話になった。


「カイルは自分で作れないだろうから、料理人の人に頼んでもいいよ!

 私は自分で作るけどね!」


 へへへんっ! と胸を張るフィーナに、実際そうなので、カイルは悔しそうな顔を見せていた。


 そうした二人のやり取りを、最初こそ口を挟んでいたジェフだったが、途中からばかばかしくなって、見守る方に徹した。時折、二人のやりとりはじゃれあう小動物のそれに思えてならないのだ。それは二人のやり取りに対するサリアの言動から学んだことでもあった。


 サリアは基本、二人のやりとりを傍観し、必要に応じて口をはさむ。


 そうしてフィーナの言動の舵取りをしているサリアに、ジェフも一目置くようになっていた。


 そして前々から気になっていたことを、カイルとフィーナの小競り合いの合間に尋ねていた。


「名を『スチュード』と言いましたよね。御父上はもしや大臣の――」


「――ええ。父には遠く及びませんが」


 苦笑してサリアは肯定する。


 サリアの返事を聞いて、ジェフは納得した。


 フィーナのフォローも広い視野も、サリアの素性を考えれば納得できることであった。


 そして。


 フィーナとカイルの献立対決に、審査する立場としてサリアとジェフ、校外学習に付き添う教師一人が立ち会う中、一日分の朝昼夜の食事を競う催しが行われた。




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