7.白いネコ 3
目を覚ましたときには、フィーナは自分のベッドにいた。
(……あれ? 確か裏庭に……)
ぼんやりとする意識の中、布団の中で寝たまま瞬きを繰り返す。
時間がたつにつれ、はっきりする意識の中、同時に記憶が途切れる寸前の情景が脳裡に甦る。
ベッドの上でゆっくりと上半身を起こした。
窓の外では初春の花が綻んで、その周りを蝶がひらひらと舞っていた。
のどかな情景をぼんやりと眺めていると、母親のロアが部屋の扉を開いて、目覚めたフィーナに気付いた。
「気分はよくなった?」
ベッドに腰をおろしておでこや頬、首や両腕など体に手を当てて、体の様子を確かめていく。
「大丈夫?」「変なところはない?」と確認して異常ないと知ると、安堵の息を漏らした。
フィーナも母の不安を払拭しようと「もう大丈夫」とほほ笑んだ。
フィーナ自身、体調はいつもと変わりないと思っていたのだが、母のロアから「しばらく休んでいなさい」と諭されて、それから数日、ベッドの上でごろごろと過ごす日々をすごした。
そうした日々の中、日中はいつの間にか白いネコが入ってきて、フィーナの傍らに寄り添った。
初めてネコが窓辺から部屋に入ってきたのを見た時、フィーナは希少価値が高い生物であること、裏庭での出来事からどう対応していいのかわからず、慌てふためいた。
が、そんなフィーナに呼ばれて部屋に来た母ロアに、寝込んでいた数日間、毎日来て枕元に寄り添っていた、と教えられた。
「フィーナに助けてもらったって、わかるのかしらね」
危ないところを助けてくれたフィーナに、恩を感じているのだろうと考える家族は、中級魔物である白い獣の対処に困りながらも微笑ましく見ていた。
「そうなんだ」とフィーナは理解しつつ、それでも最初は戸惑いがあった。
ネコに触れると、あの時の体の内部が蠢く不快感があるのではと警戒してしまう。
触れるのは怖いと思うフィーナに、けれど白い柔らかで見るからに心地よさそうな体毛は誘惑を振りまいている。
せめぎ合う好奇心と興味の中、フィーナは誘惑に負けたで、伸ばした人差指でつついてみた。
ふわりとした体毛に触れても、恐れていた不快感はない。
逆に初めて感じたであろう感触に、歓喜の声を上げていた。
柔らかな体毛は一つ一つの毛が細く、つついた指がふむ、と吸い込まれるように入っていく。
繊細でありながらもふわふわとしていて――。
警戒心が解かれると、後は一心腐乱にネコを撫で続けていた。
撫でて腕に抱きあげて、膝の上に抱いて。
何事かと、駆けつけたロアが見ると、フィーナは目を輝かせてネコを抱きかかえている。
裏庭の出来事があったので、ロアは「大丈夫なの?」と心配した。
「大丈夫!
お母さんも触ってみて、すっごく気持ちいい!」
興奮する娘に気圧されながら、ロアは申し出を断った。
フィーナは残念そうにしながら、一人でネコの体毛を堪能していた。
胴長の柔らかな体も面白そうに抱えている。
ネコはいじられる間、眉をひそめて不機嫌な様相を見せつつも、噛みついたり鋭い爪で攻撃することもなく、フィーナの側にいた。
そうして当初、警戒していたネコが、フィーナの側にいるのが当たり前になったころ。
裏庭でネコを見つけて以後、初めての休息日に、宮仕えのために宮中に出ていたアルフィードが自宅へ帰ってきた。
「オリビアに借りてきた」という道具を手にして。
今回は少し短めです。
きりのいい所までで。