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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第十一章 精霊の寵児
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69.貴族裁判 62


 同時に、裁判長を非難、軽蔑する人々の感情が高まった。


 場の雰囲気を感じとった裁判長は、焦り、弁明しようとするも、上手く言葉が出て来ず、声なく口を動かしていた。


「二――、ニルディアート様……っ!」


 裁判長より先に、裁判官席から声が上がった。


「……トーマス様……」


 声の主を見たリディアがつぶやく。


 リディアの記憶から、ニルディアートは声の主を把握した。


 裁判長の弟――トーマス。


 恰幅のいい――余分な脂肪をため込んでいるとも言える――裁判長と違い、トーマスと呼ばれた男性は、細身で長身、頬もこけている。


 ひょろりと貧相な印象のトーマスは、ニルディアートの神的存在感に圧倒されながらも、自身を奮い立たせて話続けた。


「サ――サンマイヤ孤児院――兄の管轄下にあり、リディアが身を置いていた彼の院を、あなた様の御意志により、私の所有として頂けないでしょうか……っ!」


「トーマス!?

 お前、何を――っ!」


「兄さんこそ――っ!

 なぜあんなことができるんだ――っ!」



   ――パチン。



 ――と。


 ニルディアートが指を鳴らした。


 場内中央で流れていた映像が切り替わり、院の子らに必要な物資を施し、共に過ごす若かりし頃のトーマスが映し出された。


 トーマスは子らの教育にも注力した。


 そんなトーマスを、院の子らは慕っていた。


 リディアもその一人だ。


 院の子らを労働力とする兄を、トーマスは何度も止めようとした。


 が、聞き入れてもらえない。


 長子が家督を継ぐ今の貴族籍の制度では、トーマスに打開策は見いだせなかった。


 ――だが。


 リディアに「王立図書館の制限無き閲覧許可」を与えた精霊神なら――。


 兄である裁判長を糾弾する今だからこそ、活路を見いだせるのでは――。


 トーマス自身「浅はかな思考」「便乗は精霊神に失礼」「リディアに甘いのを利用している」――と、自身をわかっている。


 そうした批判を受けたとしても、成し得たかった。


『いいよ?』


「…………は?」


 これまでの規律に背き、決死の覚悟で告げた希望を、ニルディアートはあっさりと了承した。


 トーマスが拍子抜けして、戸惑うほどに。


「ほ……本当に……いいのですか?」


『っていうか、僕が断る理由なんてないでしょ。

 僕の望みはリディアが健やかであること。

 それを妨げる要因があるなら、排除して当然でしょ。

 僕からお願いしたいくらいだよ。

 君の行いは、リディアの記憶から――感謝の思いから伝わってくるから』

 



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