66.貴族裁判 59
閲覧制限の書物は、古物故の扱いに気をつけるべき物と――秘匿されるべき歴史の裏事情が書かれた物とがある。
大半は前者なのだが、後者もわずかながら存在する。
そのため、グレイブも二つ返事で了承できなかった。
「理由を――お伺いしてもよろしいでしょうか」
『この国の為になるからに決まってるでしょ♪』
言いながら、ニルディアートはリディアに抱きついて、惜しみない好意を示している。
――リディアは戸惑うばかりだが。
『うふふ~♪』……と、リディアに抱きつき、頬を密着させながらニルディアートは続けた。
『ボクとしては警戒するキミが理解できないけど。
だってさ。
ボクっていう精霊神の後見受けて、これまでと違う生活を望めるのに。
金銭を望むでもなく、権威や名誉を望むでもなく。
日常生活の向上を願う前に、知識の享受を求めるこの子が……自分の利益のために秘匿事項を利用すると思う?
閲覧制限かかってるのも、なぜかは理解してないんじゃない?
――ねぇ、リディア。
王立図書館で閲覧制限されるのって、どうしてだと思う?』
「え……?
……に……日記……とか……個人的な物だから……?」
『~~~~~~~っ♪』
リディアの答えに、ニルディアートはとろける笑みを浮かべる。
正否を告げないニルディアートに、リディアは焦った。
「に……っ、日記を人に読まれるのって、すごく恥ずかしいじゃないですか!」
『うんうん。
そうだね~。
――ってことは、リディアも日記、つけてるの?』
「~~~~~~っ!!」
赤い顔をさらに赤くするリディア。
純粋無垢なリディアを愛でつつ、ニルディアートは少量の現実を織り交ぜた話を口にした。
『日記は個人的なものだけどね?
歴史に関与したら、それはもう公のものなんだよ。
その辺は教えていくけど――』
ニルディアートはグレイブを――正確にはグレイブがいる階――見上げた。
『この子はこの場にいるどの裁判官より、過去の判例を把握してる。
なのに――こんなにも欲がない。
悪用される恐れなんてないのに、許可しない理由が、ボクにはわからない』
ニルディアートの話を聞いて、グレイブも納得した。
「了承致します」
グレイブの承諾を聞いて、ニルディアートはにんまりと笑みを浮かべた。
『キミの要望はかなえられたかな?』
『どう?』と、笑みを浮かべて訊ねるニルディアートに、リディアは自然とうなずいていた。
「お――お待ちをっ!」
焦ったのは裁判長だった。




