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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第三章 アールストーン校外学習
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1.アールストーン校外学習

※7/13

「アールストーン校外学習」を第三章としました。それに伴い、サブタイトルの章タイトル数、タイトル名、ちょこちょこ修正しています。



 アールストーン山岳地帯に、王宮騎士所有の鍛練場がある。


 王宮から馬車で半日ほどかかるその場所は、騎士団の遠征訓練場として使用されていた。


 季節の折々に遠征訓練が行われ、季節に応じた外での実習となっていたのだが、それも戦争があったころの名残で、戦争終結後、今では形骸的な訓練となっていた。


 その鍛練場で、セクルト貴院校の生徒は年に一度、二泊三日の校外学習を行う。


 これも戦時中の名残で「貴族籍の人間も、緊急時の対応をとれるように」との意向だったのだが、こちらも形骸化している。


 学年寮長となり、フィーナはサリアと同室のまま、本来、個室で使用する部屋に移った。


 学年寮長になってから初めての大きな仕事が、校外学習の準備だった。


 校外学習は基本、生徒が運営する。


 授業時間帯はクラス担任の指導の元、クラス単位で行動し、授業時間以外は、四名から五名の班を作って行動、鍛練場のコテージに、班を元にした同性同士が宿泊する。


 そうした日程となっていた。


 温泉地でもあるので、男女別入浴は、いつでも、大浴場に入る事が可能だった。


 他は全て自分で賄わなければならない。


 朝食、昼食、夕食。全て班で行動し、班で調理したものを口にする。


 さすがに「現地で食材確保」なるサバイバルな生活は無理なので、統率をとる学年寮長が考えたレシピを元に、一人分の分量を割り出して、その人数分が班に割り当てられ、そうした分量の準備などが学年寮長の仕事の一つでもあった。


 女性学生の学年寮長はフィーナ、男性学生の学年寮長はカイルである。


 後で知ったが、王属であるカイルも寮で生活しているという。


「それって大丈夫なの? 身辺警備的に」


「警備は万全を期している」


 さも当然。と答えるカイルに、フィーナは苦笑いしか出てこない。


(周辺の人達、通常以上の警備が必要なんだろうな……)


 何重もの警備員を通してたどり着く王宮私室と、ほぼノーガードの寮室。


 王宮で過ごすより、警備兵が余計に必要だとは考えないのだろうか。


 思ったものの、口にはしない。


 カイルとて慣れ親しんだ王宮の私室からセクルトに通う方が気楽であるはずなのに、寮長として寮に住まうのは、自身の立場と尊厳があってのことだろう。


 そうしたカイルの気概を損ねたくはなかった。


 アールストーン校外学習の生徒運営陣主力メンバーは、男子学年寮長であるカイルと、男性次席のジェフ、女子学年寮長であるフィーナと、副寮長の特例を設けられたサリアの四名であった。他、様々な場面で補佐の生徒を頼む状況を想定している。


 フィーナとカイル、ジェフは1クラスのメンバーである。女子寮の副寮長がサリアと知ったジェフは、初顔合わせのおり、少々眉をひそめた。


「ベルではないのですか」


 ベルはフィーナとカイルと同じ1クラスの女生徒だ。小柄でおっとりとした性格、金髪のさらさらと一つ一つが細い髪をボブカットに切り揃えている。小柄な顔に不似合いな大きな丸眼鏡をつけていた。いつも困った笑みを浮かべている印象のある彼女が、フィーナに次ぐ女性次席であった。


 1クラスの席順としては、フィーナ、カイル、ジェフ、ベルの順である。クラスの席が近しい事もあって、ジェフとベルは友人として親しい間柄となっていた。


 男性次席であるジェフとしては、女性次席ベルがアールストーン校外学習の主力運営となると考えていたようだった。


 赤い短髪を整髪料で空に向けて立てているジェフは、身長も高く、カイルより頭一つ分高い。体格も良く、筋肉質のジェフは、騎士団入隊希望とする少年でもあった。


 ジェフの言葉を聞いたサリアは、彼の気持ちを察し、同時に「ああ」とポンと手を打った。


「それもよろしいですわね。これまでも男性女性首席と次席者が主力陣営となっていたのですから。……というわけで、私『お役御免』ということでよろしいでしょうか」


「いいわけあるか、馬鹿者」


『面倒な事には関わりたくない』との本心から、ジェフの提言に乗っかったサリアを、カイルは顔を伏せて重いため息をついて、即却下した。


 サリアとしても、提言が通るとは思っていなかったが「もしも」を想定してのものだった。「その手もあるか」と乗ってくれれば、自分は面倒な役目から解放されるのでは。と考えていたのだが……やはり無理だったか。


 サリアの提言を、カイルが即却下したことにジェフは驚いていた。


「なぜです?」


 聞かれたカイルとしても、驚きを隠せない。


「なぜ、とは?」


 心底「わからない」と眉をひそめるカイルに、ジェフはひるみつつも自身の思いを口にした。


「この方でなく、ベルでも可能でしょう」


「……本当にそう思うのか?」


「……え?」


「これの……フィーナのフォローをベルが出来ると思うのか?」


「『これ』って言い方、ないんじゃない?」


「言われたくなければ、それ相応のことをしろ」


「ううう……」


 途中、横やりを入れたフィーナに、即座に返すカイル。フィーナは口を尖らせて不機嫌を露わにしていた。


 ジェフはカイルの懸念がわからず、答えられずにいる。


 カイルはジェフの考えの浅さに気付いてため息をつきつつ、どうしたものかと考えた末、事例を上げて話を進めた。


「フィーナの、魔法の前詞アンセルの件。ジェフが教師だったらどうしてた?」


「は?」


 問われて、目を丸くする。


 なぜそのような話をするのか、皆目見当がつかない。


 結果、以下のような答えしか出せなかった。


「どうしようにも……私は教師としての教育を受けていませんし、ノウハウもありません。

 それは私が対応を考えるべきことではないでしょう」


「……求められるのだ、今回は」


「……はい?」


「とにかく。こいつは非常識の塊、すこし目を離すと突飛なことをしでかす。

 その上『本音と建前』とか、臨機応変に対処していた部分にも、正論でバッサリ両断するんだ。

 そうした火消しやその後の対処を、ここにいるサリアが手回ししていた部分もある。

 サリアがしていたことを、ベルに求めるか? ベルが成せるか?

 運営陣に引きこんだ以上『できない』とは言えないぞ?」


「ちょっとカイル。ひどくない?」


 話を挟むフィーナに、カイルはカイルで眉を寄せた。


「間違っているか?」


 カイルの言葉に、サリアは「間違いない」と同意する。


「む~~~~~」


 フィーナはむくれて、頬を膨らませた。




新章突入です。

話が大きく動く予定です。

登場人物増えてます。

……名前、覚えきれるかな……(←私が)

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