62.貴族裁判 55
『リディアに加護を与えたのは彼女のためじゃない。
ボクのためだから。
直に加護を与えるとね、リディアに恩恵を与えると同時に、繋がれるんだ。
ボクはリディアの知識を享受できる。
リディアの知識量は知ってるよね?』
圧を含んだ微笑みを、ニルディアートは裁判長に向けた。
閉口する裁判官席に反論はナシとして、ニルディアートは続けた。
『上級裁判――貴族裁判が制定された当初、被告は即日名誉の毀損の訴えを起こせると定めてあるよ。
「間違いでした」
「勘違いでした」
――と終わらせない為にね。
そんなリスクを負っても訴えたい――。
それがこの裁判の始まり』
ニルディアートの話に、場内の者だけでなく、リディアも驚きを隠せない。
事務的な記録は残っている。
しかし、リディアが見た中に感情を絡めた記録はなかったはずだが――。
リディアの感情を受けたニルディアートが、苦笑交じりに肩をすくめた。
『制定には、ボクもガッツリ噛んでるから。
――だからこそ。
都合のいいように利用されるのは――許せない』
ニルディアートは鋭い眼差しを、裁判官とカディス・フォールズに向ける。
『名誉の毀損。
訴えは起こせる。
ボクが保障する』
ニルディアートの言葉を受けてゲオルクは一礼し、再度、口を開いた。
「ゲオルク・フォン・エルディナードの名の下、我が孫、フィーナ・フォーリュ・エルディナードが名誉を毀損されたとして、カディス・フォールズ侯爵を訴えさせていだだきます」
拒否される理由はなかった。
受理され、罪状――もとい、賠償はどうするか。
戸惑う裁判官らに、ニルディアートが告げる。
『規定では「訴えられた者が受けたであろう処罰と同等の処罰」だね』
フィーナに想定された処罰。
セクルト貴院校退校。
それと同等の処罰とは――?
『侯爵の引退でしょ』
躊躇無く、あっけらかんと告げるニルディアートに、場内はざわめいた。
カディス・フォールズに批判的な貴族籍からも「それは重すぎるのでは」とのつぶやきが漏れる。
場内のほとんどがそうした意見だった。
あぐらをかいた姿でふよふよと宙に浮き、場内の様子を見ていたニルディアートが首をかしげる。




