61.貴族裁判 54
『この子はこれまでの寵児と似てるね』
つぶやいて、未だ状況を飲み込めていない三つ編みの女性に、ニルディアートは手を差し伸べた。
『よろしく。
リディア・キールソン』
「え――?」
明かしていない名を呼ばれ、三つ編みの女性――リディアは驚きに目をまたたかせた。
何がどうなっているのか。
状況を理解できないリディアだったが、ニルディアートに加護されると同時に、感覚の変化を感じていた。
加護の宣言と同時に、鮮明に見えるニルディアート、場内を俯瞰視できる感覚――。
何より――。
恐れの対象だった貴族籍の人々が、矮小に思えた――。
リディアが感覚の変化に戸惑う間、ニルディアートはシアに怒られていた。
「ですからっ! 勝手なことは控えてくださいって言いましたよね!?」
『アグロテウスも同じことしてるのに、ボクだけ当り、強くない?』
「アグロテウス様にも注意致しましたっ!
それを知った上でされたのですから、対応が激しくなってもいたしかたないでしょう!?」
『思わないー』
「なっ……っ!!」
リディアに背後から抱きつき、だらりともたれかかる体勢をとるニルディアート。
肩をいからせるシアに、淡々と口を開いた。
『ボク、言ってたよね?
政に関わらなくてもいいから、内情は把握しといてって。
それって公表されてる部分だけじゃないよ?
裏を含めた部分もだよ?
合わせて、過去の判例も把握しといてって言ってたはずだけど。
ゲオルク、カシュート。
これは君たちの仕事だよね?』
シアは知らなかったようで、戸惑いをにじませている。
ニルディアートの言葉を受けて、ゲオルクが礼をとった。
「名誉の毀損に関しては、調べておりました」
ゲオルクは告げると、裁判所出入り口に控えていた伴魂のオズマをニルディアートの元へ向かわせた。
オズマからゲオルクの情報を伝え聞いたニルディアートは、渋面を張り付かせる。
過去の判例から、フィーナも訴え可能との判例を見つけているが、裁判官がそれらを把握していないとは思っていなかった。
ゲオルクとカシュートの仕事は認めつつ、詰めの甘さにニルディアートはため息をつく。
『ボクが直に加護を与えたワケ――わかるよね?』
「彼の者の知識を得るためかと――」
『そう――』
ゲオルクの言葉を肯定したニルディアートは、裁判席を見た。
――己の知識不足を恥じない者達を。




