58.貴族裁判 51
『え? 加護与えちゃ、まずかったの?』
「前々から言ってますけどっ! 人には人の準備が必要なんです!
形式はあってもなくても、結果はほぼ一緒ですけど!
受ける側の気持ちが違うんです!」
言いながらシアは、カイルを心配そうに見る。
カイルは戸惑うばかりだ。
洗礼は先のことだと思っていたから、父である国王とも母とも、話していなかった。
洗礼がどういったものかは、オリビアとルディの洗礼に立ち会ったので知っている。
二人とも、セクルト貴院校卒業間際に行われたので、カイルもその時期だろうと思っていた。
姉、兄の洗礼は、共に荘厳さを感じた。
儀式主体だと思っていたが、能力に影響を与えると、初めて知った。
その洗礼が自身に成されたと知ったカイルは、形式的な儀式が苦手だったので、戸惑いながらも安堵感が大きい。
カイルはシアを見て、ちいさく頷いた。
その動作でシアはカイルが不満を感じていないと理解した。
アグロテウスはアグロテウスで、彼なりの理由があったという。
『加護を与えて、僕たちとの繋がりを作りたかったんだよ。
(この子の伴魂――確認したいことあったから)』
後半は他の精霊神、精霊教会のシア、ゲオルク、カシュートにだけ聞こえるように話す。
アグロテウスの話を聞いたシアは頭を抑えつつ「――御当主、若頭」とゲオルクとカシュートを呼び、上方に視線を向けた。
視線の先は、王族席を指している。
王族の方々、特に国王陛下に説明よろしく。
――と、目や仕草が伝えていた。
――わかっている。
ゲオルクはシアをつと見た後、王族席に礼をとって口を開いた。
「陛下。
尊き方の御心により、想定しておりませんでした、カイル殿下の洗礼が成されました。
王族の方の洗礼は、国家行事となるほど重要なものだと、重々承知しております。
ですが――行事として行われる洗礼は、魔力の安定を図るもの。
精霊神自ら加護を与えるなど――エルディナード公爵家を除いてですが――これまでにほとんど記録にございません。
異例ではございますが、尊き方の――精霊神の、寵愛を受けて成された洗礼だと認めてもらえないでしょうか」
国王を含むこの会場に同席する王族たちに、異論はなかった。
そうして「閉廷」の流れになりそうな時に、ゲオルクが手を上げた。
「この場は上級裁判――貴族裁判で、間違いございませんか」
「ええ。そのとおりにございます」




