55.貴族裁判 48
国王は浮かされるように――知らぬ間に口を開いていた。
「国を――統治するために――」
『あなたの言う国は、国内に限ったことでしょう?
外からの脅威は?
侵略にはどう対処しているの?』
「隣国とは……外交手段を講じて、友好的な関係を築いております」
アクアリューネに問われるまま、国王は思ったことを偽りなく答えた。
――言わされた。
取り繕いもできなかった。
答えた内容は本心で、悔いはない。
別の言いようがあったのではとの悔やみはあった。
『友好的――?』
嘲笑するアクアリューネに、国王はカッとなった。
「現に建国以来、他国との大きな戦はございませんっ!」
隣国の動向、内情等、情報収集する専門機関を設けていた。
そこを通じて、先手を打ってきた。
国王、グレイブは戦を回避してきた自負がある。
その自負を――アクアリューネが打ち砕いた。
『よく聞きなさい。
人の――限られた範囲の――この国の主よ。
あなた方の知らぬところで、建国以来、他国の侵入を阻み続けた者達がいると。
私たちは、その者達に好意を抱いて手助けした。
あなた方――貴族籍、と、いうのかしら?
それらの魔力向上として――洗礼を行っていたのも、非常時を想定してのことよ。
上に立つ者として傘下の者を守れるよう、洗礼を行い、魔力を高めていた。
そうした経緯――理由は、きちんと伝わっているのかしら?
――いま一度問うわ。
人の――この国の主よ。
エルディナードの献身、貴族籍の献身。
きちんと理解されているのかしら?
返答によっては――あり方を見直さなければならないけれど。
先に言っておくけれど、私たちが執着するのはエルディナードの血筋よ。
この国がどうなろうと、関心はないから』
アクアリューネの話に、他の三精霊神は口をつぐんでいる。
心情はアクアリューネと同じと見えて、動揺が場内に走った。
動揺したのは王族もだ。
サヴィス王国――精霊の加護を受ける国。
その根本が覆るのだから。
「あの――っ!」
状況がわからず、口をつぐんでいたフィーナが、たまらず口を開いた。
自分に抱きついたままの女性――ニルディアート、少し離れた後方に控えるガイアーティスとアグロテウス、先だって話すアクアリューネ。
その四人にフィーナは目を向ける。




