54.貴族裁判 47
言って、最上級の礼をリューネに送るゲオルク。
「余計なことはするな」とリューネに牽制したようにも、フィーナには感じた。
発言したゲオルクに、機会をうかがっていた国王が、重ねて訊ねた。
「エルディナード公爵。
かの方々と――フィーナ公爵令嬢の状況を説明してくれまいか」
それは場内の誰もが知りたいことだった。
ゲオルクは四人に目を向けた。
『いいわよ。隠してたわけではないもの』
四人の返事を受けて、ゲオルクは上階の国王に最上級の礼をとったのち、口を開く。
「まずは御方々につきまして。
地の精霊神、ガイアーティス様。
水の精霊神、アクアリューネ様。
風の精霊神、ニルディアート様。
火の精霊神、アグロテウス様にございます」
四人の身姿、会話、互いの略称から、彼ら彼女らが何者か、大半の者は予想していた。
予想が確かだと明言され、場内はどよめいた。
――が、それも数秒のことだった。
耳障りだったのだろう。
眉をひそめる四人の精霊神の気配が、場内に伝わる。
場内の貴族籍達は、精霊神の機嫌を損ねないよう、口を閉ざし、息を潜めた。
精霊神達の気配に、王族の者も気圧されつつ、国王は口を開いた。
「エルディナード公爵。
あとで詳しい話を聞かせてもらえまいか」
上位貴族第一位、エルディナード公爵家。
そのエルディナード公爵家が統括する精霊教会。
知っているようで――知らない。
感覚では理解できるが説明できない。
そんな感覚にとらわれての発言だった。
「国王陛下の御心のままに……」
了承して、礼を送るゲオルクに対して、水の精霊神アクアリューネが『詳しい話?』と嘲る。
明らさまな非難を受けたことがない国王は、アクアリューネの言動に戸惑った。
国王の戸惑いにかまわず、アクアリューネは続ける。
『何を聞く必要がある?
人の――この国の長よ。
なぜそなたが知らないの。
この国の有り様を。
同じく、なぜこの国は、エルディナード家の献身を知らぬ者ばかりなの?
――この国の主たる御身に訊く。
そなたの役割は?
何のために国の長として有り得る?』
アクアリューネは、フィーナの側にいた。
――が。
質問を受けた国王は、近くに――片腕を伸ばした先の距離に、アクアリューネを感じた。
空に揺らめく、薄青から濃紺に色を変じる、緩やかに波打つ髪。
試すように――挑むように――……心奥を探るように見つめてくる。




