40.学年寮長【了】
ラナの両手を握って告げたフィーナの言葉に、ラナは顔をほころばせて「よろしくお願いします、フィーナさん!」と告げていた。
「フィーナでいいよ! 私もラナって呼んでるし」
「う……それは……がんばってみます」
結局、ラナの「フィーナさん」呼びは変わる事はなかった。
二人の様子を見ていたサリアが、眉をひそめてそっぽ向いた。
「……私は友達じゃないの……」
自然とこぼれ出た言葉は、フィーナ達に聞こえないほどの小声のつもりだった。
……が。
「……へ?」
きょとんとした顔で聞き返したフィーナに、声が届いていたのだと気付いたサリアは、恥ずかしさから顔を赤くして「何でもないっ!」とそっぽ向いた。
慌てたフィーナが混乱気味に、言葉を募らせる。
「え? ちが……。ちょっと待って。
……え? サリアのこと、友達って思ってよかったの?
そう思ってたの、私だけじゃなかったの?
サリアも、思ってくれてたの?」
「~~~~っ、当たり前でしょ!?」
我慢できずに、サリアは背を向けたまま口を開いていた。
「そうじゃなきゃ、寮の同室のよしみだけで、あんなにスーリング祭の手伝い、するわけないじゃない! その他にもいろいろと手助けしてたの、友達だと思ってたからに決まってるでしょ!?」
「で、でも、サリアってアルフィードお姉ちゃん、大好きだから、それで助けてくれてたのかなって、思ってて……」
痛いところをつかれて、サリアも一瞬「うっ」と言葉に詰まった。
確かに、その思いがあることも、否定できない。
けれど。
「アルフィード様のことがなくても、同じことしてたわよ! アルフィード様のことは渡りに船だったけれどっ!」
公言する恥ずかしさから、サリアはフィーナの顔を見ては言えなかった。
結果、背を向けて心境を吐露する結果となった。
その後、しばらくフィーナからの声はなかった。
そわそわした心地のサリアの耳に、驚いたラナの声が届いた。
「え、ちょっと、フィーナさん!?」
声につられて振り向くと、フィーナが号泣していた。
「え!? ちょっ、フィーナ!?」
どうして泣く? 何かひどいこと言っただろうか?
慌てるサリアとラナに、フィーナは涙を拭いながら、嗚咽交じりに頭を振っていた。
「ご、ごめ……っ! ち、ちがっ、うのっ!
う、嬉しくてっ。だって、せ、セクルトで、友達、できるなんて、思って、なかった、から……っ!」
セクルトは貴族籍の子女が通う学校だ。
姉のアルフィードとオリビアの関係に憧れは抱いていても、フィーナ自身はそう上手くいかないだろうと、心のどこかで諦めていた。
珍しい伴魂を持っているからセクルトに呼び寄せられた。
セクルトの理念で『同学年は対等』だと心底、思っているのだが、それと友人関係をはぐくめるかどうかは、また別問題だ。友人関係となると、互いの気遣いも必要となるし、相性や好き嫌いも潜在的な部分で弊害となる。
なにより、貴族籍の面々とは、これまでの環境の違いから忌憚ない関係をはぐくめるとは思えなかったのだ。
それはフィーナ自身、意識していなかったのだが、カイルの宣戦布告、その他、自分が普通だと思っていたことがそうでないと突きつけられた事象が積もりに積もって、フィーナの潜在意識の中で、友人を諦めていた部分があった。
サリアに対しても、心を許している部分はあるのだが、迷惑をかけてばかりだとの認識もあったので、サリアは面倒見がいいから、フィーナにかまってくれているだけで、友人とは思われてないだろうな、手間のかかる同室者としか思われてないだろうなと、心の奥底で考えていたのだ。
それが思わぬ「友人」発言に、フィーナの中で無意識に堰き止めていた箍が外れた。
外れた箍によって、一気に涙が流れる状況となったのだ。
サリアとラナになだめられながら、涙をぬぐい続けるフィーナを見て、ローラは小さく息をついていた。
「若いなぁ……」
昔を懐かしむつぶやきは、三人の耳には届いてなかった。
学年寮長、今回で終了です。
次回は別の話になります。