50.貴族裁判 43
フィーナには手順のほとんどを省いて行うと、精霊が譲らない。
儀式の手順として許されたのは、加護を受ける祝詞だけだ。
洗礼を経験した者達からすれば「そんなのアリか?」と憤慨してもおかしくない内容だった。
「文句出たら、対処してくださいよね」
精霊達につぶやいて、シアはフィーナの側に行き、数メートル離れた場所で向かい合うと目を閉じた。
両腕を肩の高さで広げて、静かに祝福の祝詞をとなえ、最後を締める。
「フィーナ・エルディナードに、幸多からんことを――」
フィーナはシアが自分に体を向けて、両腕を広げたときから、目を閉じて声を聞いていた。
何が起こるのかと、フィーナは体を強ばらせていたのだが。
むぎゅっ
形容するなら、そんな音の感触がした。
誰かが首元に抱きついている感触に驚きつつ、目が開けられない。
感じる柔らかな感触から、女性だろうと感じた。
その腕が、左右両肩から感じる――……?
(……ん?)
違和感を感じて、そっ……と目を開けたフィーナは、静止した世界を目にした。
見えるのは、驚きで硬直する人々。
マサトも目を丸くして固まっている。
マサトがそうなるのは珍しいなと思ったところへ、マサトからの視覚情報が――フィーナの伴魂、マサトが見ている情景が、流れてきた。
見上げる視界の中央には、フィーナ――自分がいる。
そのフィーナの首元に、淡い青の、緩やかに波打つ髪を腰まで伸ばした女性と、淡い緑の癖のある髪を顎付近まで伸ばしている女性が、フィーナの左右から抱きついていた。
衣服は、薄手の白生地。
長髪の淡い青髪に女性は、袖も手首まで、足下にも足首までの長さの衣装だった。
対して、緑髪の短髪の女性は、薄手の白生地は同じながら、腕は肘付近まで、足下も膝上の長さの衣装だった。
二人はフィーナに抱きついて、両膝を曲げた状態で、ふよふよと宙に浮いている。
そしてフィーナの背後には、癖のある赤い髪、赤い瞳の男性と、ブラウンの短髪、同色の瞳の男性が、興味深げにフィーナをのぞき込んでいる。
――どちらも宙に浮いた状態で。
「――――――え?」
自分の状況を他人の目を通して目にしたフィーナは、目を点にする。
何がどうなっているのか、四人が誰なのか――ってか、浮いてる?
裁判所内の誰もが困惑、思考停止する中、淡い青髪の女性が、キッと眉をつり上げる。
『そこの毛玉ぁああっ!』
叫んで、フィーナと少し距離をとっていたマサトを、ビシっ! と指さす。




