49.貴族裁判 42
理解すると同時に事情を説明する。
「何もしなくていいい。段取りはこちらで行う。
言われた場所に立っていればいいだけだ」
「で――でも……!」
洗礼がどういったものか、はっきりしないままでは恐れしかない。
精霊教会、祖父と叔父の関係、エルディナード公爵家――。
わからないことだらけなのに、その上、洗礼を受けたらどうなるのか。
「フィーナ」
ゲオルクは静かに声をかけた。
「大丈夫だ」
低い声は、フィーナの心にするりと入り込んだ。
祖父は――ゲオルクは、昔から言葉少ない。
表情の変化も少なく、喜怒哀楽の感情が見えにくい。
けれど。
いつも誠実さを感じられた。
フィーナは戸惑ったものの、祖父を信頼して受け入れた。
「その場に立っていればいい」
その言葉のまま、被告人席でたって、ぎゅっと目を閉じた。
――と……それまで威勢のよかったシアが、急に歯切れ悪くなる。
「え? え……と……。
え……本気……?」
ひとり言のように、シアはつぶやく。
後で精霊と話していたとわかるが、このときはゲオルクとカシュート以外、理解できなかった。
困り顔のシアは、ゲオルクとカシュートを見て、助けを求める。
ゲオルクとカシュートは、そうなるとわかっていたのだろう。
シアの視線に緩く首を振った。
二人の行為からシアも「仕方ない」と判断したようだった。
諦めた息をついて「申し訳ございません」と頭を下げた。
「思った以上に、精霊方の怒りが激しく――。
本来、心得を奏上し、異存ないか、受け入れられるかを問いかけ、返答を得た上で、祝辞となる儀式なのですが。
精霊方より「無駄な時間省いて早く」と急かされております。
フィーナ公爵嬢は――おそらく、本人も無意識のうちにでしょうが――儀式に必要な心得を、すでに得ております。
あとは相性のいい属性の選別を経て、属性の精霊により祝福を受けるのですが――」
フィーナを伺い、ゲオルクとカシュートに視線を送る。
ゲオルクとカシュートは「仕方ない」と同意し、フィーナは「……お任せします」と答えるしかなかった。
裁判所内の貴族籍は、カイル、サリア、アルフィード以外は皆、洗礼の儀を経験している。
儀式は通常、数日前に「前触れ」として「洗礼の儀」の日取りを受ける。
それから儀式の段取り、受け答え、該当者が奏上すべき祝詞を暗記した上で、選ばれた精霊より祝福と加護を受けるのだが。




