47.貴族裁判 40
「エルディナード公爵家は精霊に縁のある一族にございます。
皆様の認識の齟齬は、訳あって、公の場を望まないエルディナード家の意志を汲み、精霊が術を施したためにございます。
術と申しましても、効力は軽く、皆様方が経験されたように、きっかけさえあれば、すぐに解けてしまいます。
――では。
陛下の承認も頂いたことですし、今後は「フィーナ・エルディナード公爵令嬢」として審議されますよう、謹んで申し上げます」
「しかし――そう急には――」
戸惑う裁判長に、シアは冷たい笑みを浮かべた。
「『急に』とは、こちらのセリフです。
密やかに暮らしていた者を、有無を言わさず表舞台に引きずり出しながら「困ったからナシ」はないでしょう?
――もちろん、貴族籍の方々同様、言われなき不名誉を講じられれば、相応の対応を致します。
貴族籍が名誉を重んじると――皆様ご存じでしょうし」
最後はカディス・フォールズを見て、シアは告げる。
カディスは蒼白になった。
机に置いた手を強く握りしめ、歯の根をかみしめる。
フォールズ家は第九位上位貴族の侯爵家だ。
家柄は、エルディナード公爵家に敵わないと明白だった。
このままでは「名誉毀損」として、フィーナ親族から訴えられる――。
困惑しながら、思考をフル回転させて、カディスは打開策を探った。
裁判所内は、次々に明らかとなる事実にざわめいた。
そうした状況を眺めていたゲオルクが、小さく息をついた後、口をひらいた。
「――カディス・フォールズ侯爵」
静かな声は、場内に響いた。
「貴殿も、国を思っての今回の行為とお見受けする。
事情を知らなければ、誤解するのも仕方なかろう。
現状において、うかがう。
我が孫――フィーナ・エルディナードは、貴殿が訴える、悪害ある者か」
ことの始まりは、カディス・フォールズの訴えからだ。
カイルをフィーナがそそのかし、利権を良いように使っている。
――と。
沈黙が続いた。
長い沈黙に、人々の密やかな声が聞こえ始めた段階で、カディス・フォールズは頭を垂れて低い声で口を開いた。
「……申し訳、ございませぬ。
事情を知らず、勘違いをし――いらぬ御迷惑をおかけしました――」
フィーナに非はないと、認める発言だった。
場内はざわめき、被告人弁護席の面々は、一応に安堵した。
カディス・フォールズが非を認めたので、ゲオルクは「名誉の毀損」の訴えは起こさなかった。
(――「終わりってこと……かな?」)




