46.貴族裁判 39
この場に同席する貴族籍達も同じだろう。
知っていたのに今まで知らなかった――気付かなかった。
(――『「知らない」と第三者が暗示をかけてたんだろ』)
と、マサトは言う。
「バカなっ!」
信じられないのは、カディス・フォールズも同じだった。
目の前の机を叩いて立ち上がる。
「フィーナ・エルドがエルディナード家の者だとの証拠がどこにあるっ!」
言うだけなら誰でもできる。
カディスの発言を聞いて、未だ混乱している者は「それもそうだ」と同調した。
――同調しながら、本能的部分で「真実」だと理解している。
理解しているが、不明な点が多すぎて、信じきれないのだ。
シアが挑戦的な暗い笑みを口元に浮かべて、口を開こうとしたとき。
「私が、証明する」
告げたのは、国王、グレイブ・ウォルチェスターだった。
◇◇ ◇◇
声は、上空から降りてきた。
王族は裁判席、傍聴席から見えない上方の席に座っている。
一度存在を明かした席付近から、声は聞こえた。
「フィーナ・エルディナードの祖父、ゲオルク・エルディナードは、血筋は遠いが私の血縁者だ。
彼の婚姻相手が、エルディナード公爵家だった。
建国以来、エルディナード公爵家の役割は重要だ。
貴族籍の洗礼を行う精霊教会。
精霊教会をエルディナード公爵家が統括していた。
ゲオルク殿が精霊教会司祭の衣装なのは、それに関連してのことだろう。
私はゲオルク殿を見知っている。
彼は間違いなくエルディナード公爵家の者であり、彼が孫と言うなら、フィーナ・エルディナードは上位第一貴族に違いない」
国王の話を聞いて、受け入れる者もいれば、未だ受け入れきれない者もいた。
受け入れられない者。
彼らは「いない」と思っていた者が、唐突に「存在する」とされ、長年積み重ねた意識の改変を求められ、適応できない者達だ。
「ところで」
パンっ!
――と、シアが手を叩いて高らかな音を奏でる。
「『エルディナード公爵家を今まで認識できなかったのに、急に言われてもわからない』
『急に言われてわからないけど、納得してしまう』
『本能に理性が追いつかない』
――なんて、悩んでる方、いらっしゃいます?」
肯定する明確な返事はなかった。
戸惑うざわめきが生じた程度だ。
そのざわめきを感じて、シアは微笑む。




