45.貴族裁判 38
第一位を空席とすることで、王族との差をつけ、一貴族が必要以上の力をつけないようにしているのだろうと、フィーナは勝手に思っていた。
実際、同じ考えの者が大半だった。
ひとつの貴族が力を持ちすぎたとき、対抗する貴族を第一位に推挙してパワーバランスを保つ。
そのために空席にしているのだろうと。
そう、思っていた。
だが、今は「違う」と明白にわかる。
失われた一族――。
他の貴族籍と異なる一族――。
ふと――その名が唐突に、思い浮かんだ。
「エルディナード……公爵家……」
知らないはずなのに――聞いたことなどないはずなのに。
フィーナは自分の真名――正式名称と言われたファミリーネームが、第一位上位貴族のものだと、本能で理解したのだった。
◇◇ ◇◇
知らなかったはずの名を唐突に知り――確信した。
しかし、知っただけで理解が追いつかない。
「エルディナード公爵家」
それが第一位上位貴族だと、フィーナも思う。
だがそれが自分には繋がらない。
(だって――っ!)
ずっと一庶民として暮らしてきた。
貴族籍との関わりは、姉や自分がセクルト貴院校に入学したからこそ、生じた縁であるはずだ。
リオンとロア、両親二人など、貴族籍との関わりは皆無だし、貴族籍とは思えない庶民として生活している――……。
(…………あれ?)
両親を思い出したフィーナは、違和感を覚えて、困惑から少しだけ冷静になった。
自他共に認める子煩悩の二人が、なぜ、この場に居ないのか。
保護者として同席するのが、なぜ、祖父ゲオルクと叔父カシュートなのか――。
思っているところへ
(――『落ち着けって。』)
「痛っ!!」
被告人が立つ机にするりと上がったマサトが、フィーナのおでこにシッポをビシリと打ち付ける。
考えにふけっていたフィーナは、まともに受けてしまい、打たれた額を抑えて悶絶した。
そんなフィーナとマサトに、視線が集まる。
第一位上位貴族。
その真実を知ったものの、理解しきれず、戸惑う眼差しが大半を占めていた。
(――「たたかなくても良かったしょ!?」)
(――『気を逸らすには、衝撃が一番だからな』)
意識下の会話で、フィーナはマサトの言わんとすることを感じて、口を閉ざした。
マサトに促されて、上位貴族を考えて――名を、思い出した。
そう。
思い出した。
意識していなかっただけで、以前から知っていたのだ。
第一位上位貴族 エルディナード公爵家
その名を。
いつ知ったのか、フィーナはわからない。




