44.貴族裁判 37
「あら~?」と、シアは小首をかしげた。
「勉強不足にも、ほどがありませんこと?」
うふふ♪ と、かわいらしい声と言動とは不釣り合いな、厳しい言葉をシアは告げる。
「――シア」
カシュートがため息交じりにシアを諫めた。
「知らなくて当然だ。こちらがそう仕向けている」
「ですが――勘づいた方もいらっしゃいますよ?」
口をとがらせるシアは、チラリと被告人の弁護席に目を向けた。
視線の先には、ガブリエフ・スチュードがいる。
ガブリエフは向けられた視線、会話に気付きながら、泰然と腕を組んで座っていた。
「調べれば明らかになる程度の秘匿でしたでしょう?
――調べる行為の怠慢は、罪だと存じます。
それが人の行いに罪状を下す立場の方ならば、なおさらのことにございましょう?」
ケタケタと、話す口調は軽い。
しかし、内容と裁判長に向ける視線は鋭く、顔は笑みを浮かべながらも冷徹さを感じさせた。
シアの言葉に、裁判長は戸惑いつつ、罰が悪そうに咳払いする。
シアは裁判長他、同席する面々の怠慢さをチクリチクリと指摘し続けようとしたが、ゲオルクに諫められ、途中で断念した。
「それでは――。
この場より、フィーナ・エルド、改めまして、フィーナ・エルディナードとして審議くださいませ」
(あ……略称ってそういうこと……)
人知れず
「真名って何?」
「略式名称? 正式名称? 名前に違いってあるの?」
……と、困惑していたフィーナだったが、シアが告げた「フィーナ・エルディナード」を聞いて、安堵した。
エルディナード → エルド。
長いから略されたのだろう。
裁判という公式な場だから、正式名称を申請したといったところか。
安堵するフィーナとは逆に、廷内はざわめき、動揺が走った。
(――『そういう仕掛けか……。とんでもねーな』)
意識下で聞こえた苦いマサトの声に、フィーナは戸惑う。
(――「な……何のこと?」)
(――『上位十二貴族。覚えてるか?』)
(――「もちろん。お姉ちゃんにたたき込まれたもの」)
(――『なら、上から順に言ってみろ』)
(――「順にって――。
第一位上位貴族は失われた一族だから、一族名なんて――」)
サヴィス王国の貴族籍の中でも、高貴とされる家がある。
上位十二貴族。
公爵、侯爵、伯爵等、他の貴族籍と一線を画した格式高い家だ。
しかし、第一位は長らく空席となっている。




