43.貴族裁判 36
礼をとりながら、フィーナはさらに困惑した。
(陛下が……おじいちゃんを――知ってる……?)
国王のつぶやきは、遠く離れた場所から見て、それが誰か、特定できるほど知った仲だと、暗に示している。
さらに国王は、ゲオルクに「殿」と敬称をつけた。
敬意を払う相手と思っての行為だ。
礼をとったゲオルクも、国王と知り合いだと示している。
傍聴席の貴族籍達も困惑し、ざわめきが廷内に広がった。
「さてっ!」
パンっ!
――と、精霊教会の女性が高らかな声を上げると同時に手を叩き、乾いた音を響かせる。
声と音に驚いた傍聴席の貴族籍達は、口を閉ざした。
静まった廷内を確認して、精霊教会の女性は続けた。
「裁判を再開するにあたり、奏上したき議がございます」
簡易な礼をとる彼女に、裁判長は何かを問うた。
「真名の使用を、お許しくださいませ」
「真名――?」
「シア」
精霊教会の女性の言葉に裁判長は怪訝な顔をし、ゲオルクとカシュートは諫めようと声をかける。
やりとりからして「シア」それが彼女の名だろう。
諫められてもシアと呼ばれた女性は「ですが」と頬に手を当て、困ったように首をかしげる。
「ここは裁判――真実をつまびらかにした上で、罪状を問う場にございましょう?
本人が知らずとも、知る者が同席するのでしたら、真実を明らかにすべきだと存じます。
記録され、後の世に残るのならば特に」
彼女の言い分も、もっともだと思ったのだろう。
ゲオルクとカシュートは少し話した後、渋々ながら了承した。
シアと呼ばれた女性に、うなずく素振りで了承を伝える。
同時に、ゲオルクは「陛下」と告げて最上級の礼をとった。
「名を明らかとするのは、私どもの本意ではございません。
ですが、このような場では先の者が申したように、秘匿し続けるのが正しいとも言い切れませぬ。
名を明らかにする所業を、お許し頂きたく存じます」
真名とは何か。
わからない上に、なぜ、国王に伺いを立てるのか――。
場内の者がそう思う中、声が上空から降ってきた。
「許す」
静かな声だった。
ゲオルクが聞いた意味を理解した上での返答だと、聞いた者達がそう思う声音だった。
シアと呼ばれた女性は、国王に伺いをたてるゲオルクにならって、最上級の礼をとっていた。
国王の返事を受けて、大きく頭を下げる。
「ではっ♪
裁判を再開致しましょう。
――裁判長。
お許しを頂きましたので、被告人、フィーナ・エルドの名を、略式で無く真名へ変更を願います」
「略式……?」
名の略式など、聞いたことが無い裁判長は、戸惑いをにじませる。




