42.貴族裁判 35
(やっぱり――)
怖くて後ろを振り返れなかったフィーナは、マサトを通じて感じたアルフィードの声で確信を深め、嘆息した。
二人が入廷した時から、感じる気配で祖父と叔父ではないかと思っていた。
思ったが――気付かないふりをしていた。
というのも、二人から怒気を感じたからだ。
フィーナが理不尽な裁判に巻き込まれているのが、腹立たしいのだろう。
祖父ゲオルグと叔父カシュート。
二人だとわかったらわかったで、フィーナとアルフィードは困惑した。
ゲオルクとカシュートが精霊教会の司祭だと聞いたことがない。
フードをはずしたゲオルクとカシュートを見て、二人を見知っているカイル達も驚いている。
驚いたのはカディス・フォールズもだ。
カディスの場合、驚くと同時に激しく動揺した。
(フィーナ・エルドの――保護者だと……!?)
フィーナ・エルドがセクルト貴院校に入学前から、身辺を調査していた。
入学前は「珍しい伴魂持ち」「ドルジェの聖女の妹」の認識だった。
その後、入試の結果、クラスの割り振り、スーリング祭参加、女子寮の学年寮長等、ことあるごとに調査書を読み返したが「精霊教会」の単語は一度として見ていない。
フィーナとアルフィードの反応を見るに、二人とも身内に精霊教会関係者がいると知らなかったようだ。
カディス・フォールズは、危うい立場に転じたと察すると同時に、困惑した。
カディス自身、セクルト貴院校を卒業間際、精霊教会による洗礼を受けている。
洗礼の儀式は厳かで、神聖な雰囲気だったと印象に残っていた。
その場の雰囲気、伴魂を通じて感じる気配から、儀式を取りなす司祭は、高い魔力を持っているとカディスは感じた。
だから、わからない。
なぜ、魔力の低い庶民が、貴族籍と同等の――もしくはそれ以上の――魔力を保有する精霊教会の司祭なのか――。
「ゲオルク……殿――?」
つぶやく声は、上方から降ってきた。
本人も無意識だったようだが、声は裁判席にも届いた。
声につられて見上げると――王族の席から、身を乗り出してのぞき込んでいる人が見えた。
下階からは天窓からの光が逆光となって、身を乗り出すのが誰か、わからない。
声は建物の造りによる反響で、はっきりしない。
フィーナも眩しさに目を眇めながら見上げていると、後方から声がした。
「お久しゅうございます。国王陛下」
反射的に振り返ったフィーナは、最上級の礼を取る祖父ゲオルクと叔父カシュートを見て、二人に倣い、最上級の礼をとった。




