40.貴族裁判 33
◇◇ ◇◇
驚いたのは裁判長だけではない。
カディス・フォールズも想定外のことだった。
裁判の結果が気になったとしても、過去の事例を鑑みるに、王族はむやみに公の場に参席しないはずだ。
いや、それ以前に。
上の階に席があると、カディスも裁判長も知らない――。
思って、カディスははっとした。
公になっていないだけで、王族だけが知っている席なのでは――と。
精霊教会の女性が「王族の参加」を条件としていたが、カディスは護衛が難しい点から「無理だ」と思っていた。
しかし、あの席なら「参加可能」だ。
経路も席も隠された場所だ。
密かな参席なら、王族の危険も低くなる。
国王並びに王族の参席を確認した精霊教会の女性は「あら♪」と表情をほころばせた。
「これで『上級裁判』を開催するにふさわしい条件は揃いました。
それでは始めましょうか。
――真なる『上級裁判』を」
穏やかな精霊教会の女性の声は、後半になると低く、威圧感を帯びた。
廷内の者と同様、裁判長も精霊教会の女性の言葉に動揺した。
「し――真なる『上級裁判』――?」
「難しいことではございません。
先ほどと同じことを繰り返していただければ結構です。
――ただ。
先ほどとは違い、いくつかの注意事項がございます。
『上級裁判』は、人と人が法廷で争うだけの場ではございません。
この国にとって、尊き人々が関与するものにございます。
私どもも精霊を調整するために口出しいたしますので、ご了承くださいませ。
その他、関係者の口出しは当然の権利として認められます。
申したい意見がございましたら、遠慮無く発言ください。
そして――一番の注意事項となりますが。
精霊は嘘偽りを厭います。
その点に関しては、くれぐれもご注意を――」
そう言って、精霊教会の女性は大仰に一礼した。
国王陛下並びに王族が廷内に居たとは、フィーナ達は思っていなかった。
マサトは途中から勘づいていたようだ。
フィーナが「いつ気付いたの」と聞いても『何のことだ?』としれっとしている。
伴魂と主のつながりで、感情は筒抜けだと知った上でとぼけている。
(知られたくないか――真意を知らないから、はぐらかしているのか……)
フィーナの立つ被告席からは、最上階はまぶしくて、人影はかすかにしか見えない。
上方を仰いで、天窓から注ぐ日の光に目をすがめる。
伴魂との繋がりから、王族の参席はマサトは知らなかったとフィーナは感じた。
王族の気配を感じたのも、精霊教会の女性の「王族参席」の追求があってからだと――何となく感じ取る。




