39.貴族裁判 32
同時に、大気を震わす振動が、廷内を襲った。
何を言っているかわからない奇異な声が、廷内の人々に重くのしかかる。
人々は、耳や頭を抑えてうずくまり、悲鳴を上げる。
三秒後。
精霊教会の女性が、上げた手を振り、拳を作る。
呼応して振動はフツリとおさまり、重圧から解放された人々は、ぐったりとしていた。
その様子を、フィーナと被告人席側に座る者達は、呆然と見ていた。
荒れ狂う声、大気を震わす振動は感じたが、苦痛はなかった。
フィーナもカイル達も、周囲の状況に驚くばかりだ。
傍聴席のほとんどの者が朦朧とする意識の中、精霊教会の女性が口を開く。
「精霊教会に招集があっても、ほとんどの場合、出廷いたしません。
――が、精霊教会の誰かしら、密かに参ります。
感情的になった精霊を取りなすのも、私どもの役割ですから。
過去の裁判では、精霊教会の者が、密かに廷内に居て調整していたので、影響がなかったのです。
今回は私ども精霊教会の独自の判断で、ひそかに入廷し、調整しておりました。
そうでなければ、フィーナ・エルド嬢が被告席に立った段階で、正気を保てる者はわずかですよ。
――さて。
精霊の怒りの理由は――明らかですよね?
精霊は非の無い者に危害は与えません。
精霊の怒りは、各自、伴魂からも伝わっているでしょう?」
精霊教会の女性は、場内を見渡した。
彼女の言葉に、それぞれが自身の伴魂を見た。
伝わるのは――畏敬の念と、怒りの矛先、理由となる感情だった。
精霊教会の女性は続ける。
「上級裁判が開廷される際には、私どもにも通知願います。
私欲の話でなく、皆様方の身を案じてのことにございます」
言って、精霊教会の女性は大仰に頭を下げて礼をとった。
――と、すぐに顔を上げて話を切り替える。
「ところで、王族の方々はどちらに?」
「――、招集など……」
疲労困憊の裁判長が、精霊教会の女性の話題転換に戸惑いながら言葉を濁す。
裁判長の言葉に、精霊教会の女性は「あら?」と首をかしげた。
「気配を感じますけど?」
「そんなはずは――……」
「先ほども申しましたが、精霊は不誠実を嫌います♪」
「しかし――……」
裁判長が戸惑う中、傍聴席がざわめいた。
声につられ、人々が目を向ける方――最上階を見上げる。
一部、場内へ突き出したバルコニーには。
国王と王妃、第一王位継承者オリビアと、第二王位継承者ルディ、そして第二王妃と第三王妃が、手すり側に立って、その姿を皆に示したのだった。




